[インタビュー|OFFSTAGE]マイク・スターン&ビル・エヴァンス
帝王マイルスの遺伝子を継承する盟友。
1980年代に出会ったマイク・スターンとビル・エヴァンス。2人はマイルス・デイヴィスのもとで音楽の自由さを学んだ。8月の来日公演もジャズ、ロックの垣根を越え会場を沸かせた。
ギタリストのマイク・スターンとサックス奏者のビル・エヴァンスの出会いは1980年代初頭。誘ったのはビルのほうだった。ボストンにあったマイケルズという小さなクラブで演奏するマイクのもとに「一緒にやらないかい?」連絡をしてきたのだ。
「僕はすぐにOKして、ニューヨークから来たビルと同じステージに立ったんだ。もちろん彼の存在は知っていたよ。誰もが素晴らしい音楽家だと称賛していたからね。共演して、理由がよくわかったよ」
やがて2人はマイルス・デイヴィスのバンドでも一緒に演奏する。そちらもビルの推薦だった。
「マイルスがギタリストを探していたから、マイクを推薦したんだ。マイルスはビリー・コブハムと、ニューヨークにあったクラブ、ボトムラインへマイクの演奏を聴きに行って即決した」
そして録音されたのが『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』。他のメンバーは、マーカス・ミラーやアル・フォスターなど。このバンドで来日公演も行った。現在都庁が建つ新宿西口の空地での演奏はライヴ録音され『ウィ・ウォント・マイルス』となった。
それから40年近く、2人は共演を重ねてきた。
「マイクは演奏技術や作曲家としての力量がまず素晴らしい。さらに、好きな音楽のテイストが僕とかなり重なる。演奏の激しさも同じくらいだ。これほど相性のいいミュージシャンは他にはいないよ」
ビルの発言にマイクも嬉しそうに応じた。
「音楽に対してオープンに構えているというところも僕たちは同じだ。ジャズはもちろん、ロックもやるし、ファンクも行ける。ヴォーカルもやる。その気になれば、カントリーだってやれるよ」
今回の来日公演は、他のメンバーも、音楽に対してオープンに構えている顔ぶれだった。ドラムスのサイモン・フィリップスは現在、上原ひろみトリオのメンバーだが、マイケル・シェンカー・グループ、ミック・ジャガーのソロバンド、ザ・フー、TOTO......とオールジャンルでキャリアを重ねてきた凄腕。ベースのダリル・ジョーンズは、マイルスのバンド、スティングのバンドを経て'90年代からはローリング・ストーンズでベースを弾いている。
「すごくギャラの高いバンドなんだよ」
マイクが満面の笑みで胸を張る。
このバンド、マイク、ビル、ダリルの3人が20代にマイルスのもとでジャズの遺伝子を受け継いでいる。マイクとビルはマイルスから何を得たのか。
「常に音楽に自分の心のすべてをこめることを僕はマイルスの姿勢から学んだ。マイルス自身がそういう人だったからね。そして、いくつになっても、学ぼうとしていた。世代を超えて、若いミュージシャンからも得ようとしていた」
「僕はマイクとはちょっと違っていたかもしれない。常に自分らしくいろ。マイルスからいつも言われていた。だから、マイルスのような存在になりたかったら、マイルスを目指してはいけない。自分自身であり続けることだと思うよ」
Photo by Yuka Yamaji
- MIKE STERN / BILL EVANS BAND
featuring DARRYL JONES & SIMON PHILLIPS - 2017 8.19 sat., 8.20 sun., 8.21 mon.
- BILL EVANS (ビル・エヴァンス)
- 1958年、イリノイ州生まれ。マイルス・デイヴィスとの共演歴のほか、82年にジョン・マクラフリン主宰のマハヴィシュヌ・オーケストラに参加し才能を高く評価され、90年代のフュージョン界を引率する存在となった。
- MIKE STERN (マイク・スターン)
- 1953年、ボストン生まれ。81年に復活したジャズの帝王マイルス・デイヴィスのグループに抜擢、一躍有名になる。脱退後は86年に初リーダー作『アップサイド・ダウンサイド』を発表、参加作品は100を超える。
photography = Hiroyuki Matsukage interview & text = Kazunori Kodate interpretation = Kazumi Someya