[インタビュー|OFFSTAGE]マシュー・ハーバート | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

[インタビュー|OFFSTAGE]マシュー・ハーバート

[インタビュー|OFFSTAGE]マシュー・ハーバート

その街のバンドとその街だけの音を奏でる。

エレクトロニカと、ジャズのビッグ・バンド。両者の見事な融合で客席を魅了したマシュー・ハーバート。その土地の演奏家との共演が個性を生み続けている。

READ MORE

 11月に2日間4公演行われたマシュー・ハーバート・ブレグジット・ビッグ・バンドは、エレクトロニカと16人のビッグ・バンドという本来かけ離れた音楽の融合で客席を魅了した。

「日本人のビッグ・バンドはとても優秀だよ。セットリストに乗せた曲はかなりバリエーションがあった。スタイルもフィーリングも違っていたにもかかわらず、短いリハで集中して習得してくれた。こういう優れた演奏家とやれたことは光栄だ。特に素晴らしかったのはドラムスの北井誉人さんだね。彼にとってはなじみのない音楽のはずなのに、自信をもって大音量で叩いてくれた。魅力的なドラマーだ」

 今回のブルーノート東京のショウのように、マシューは訪れた街のミュージシャンやクワイヤーと共演して、世界中でツアーをしている。

「これが実に面白い。まず、国によって使っている楽器が違う。ブランドだけでなく素材も違うので、当然その土地だけの音になる。そして、同じ曲をやっても、アプローチが違う。日本のミュージシャンの魅力は精密さだよ。一方、アメリカ人ミュージシャンにはミスも多いけれど、大胆な演奏をしてくれる。ちょっとマッチョなね。最近、特に楽しかったのはモスクワのビッグ・バンドだ。彼らとのリハーサルは技術的に問題があって、僕はひどく不安になった。ところが、本番では見事な演奏を披露してくれた。彼らには実は高いポテンシャルがあった。経験が足りなかっただけだった」

 マシューは、バンドにおける自分の存在について「独裁者」という表現を使った。

「ステージ上の僕は、ちょっとしたドナルド・トランプ状態だよ。自分の頭の中で鳴っている音楽を完璧に再現したい。ところが、ライヴだから、僕の思うようにはならない。それぞれのバンドの個性が違うからね。僕はバンドをコントロールしきれず、権力が分散し、結果的にステージ上に民主主義が生まれる。わかるかい? それがライヴの魅力だよ」

 その意外性を客席に楽しんでもらいたい。そして、ステージ上の自分自身も楽しんでいる。

「エレクトロニカとジャズのビッグ・バンドの融合というアイディアは、セロニアス・モンクやドミートリー・ショスタコーヴィチの姿勢から学んだ。彼らは常にジャンルの垣根を超えることを求めていた。無難な方向へは進まず、意外性を求めていた」

 ところで、マシューのショーは政治性、社会性が強い。ブルーノート東京でも客席の各テーブルに紙が用意され、トランプ米大統領への意見を書くことを求めた。それを紙飛行機にして、演奏中ステージと客席で飛ばし合うパフォーマンスを行った。

「イギリス人作家、ジョージ・オーウェルも言った通り、あらゆるクリエイティヴな行為には政治性や社会性は不可欠だ。僕は完全にアンチ・トランプ。彼の存在にも、彼が体現するすべてに対してアンチだ。それを世界中で主張することは、音楽家としての僕の義務だと感じている」

live photo

Photo by Makoto Ebi

MATTHEW HERBERT'S BREXIT BIG BAND
2017 11.7 tue., 11.8 wed.
MATTHEW HERBERT(マシュー・ハーバート)
1972年、イギリスでBBCの録音技師だった父親のもとに生まれる。作品はミニマル・ハウスから社会・政治色の強いプロテスト・ポップまでに至る。プロデューサーとしてもビョーク、ヨーコ・オノ等を手掛けている。

photography = Hiroyuki Matsukage interview & text = Kazunori Kodate interpretation = Kazumi Someya

RECOMMENDATION