[インタビュー|OFFSTAGE]リサ・フィッシャー
音楽は絵画。2本のマイクは私の世界を描く絵筆。
ジャズ、R&B、ゴスペル、ロック......、そしてオペラ。リサ・フィッシャーの音楽はジャンルを選ばずエモーショナルにくり広げられる壮大なドラマ。
「ショウはいつも、お客さんとかわすキスのよう」
4月に2日間4公演行ったリサ・フィッシャー。2日目の開演前、ステージを口づけにたとえた。
「昨夜のファーストショウは、まだお客さんのことがわからなかったから、用心深く、そっと顔を近づけるようなキスでした。そして、相手との間の心の壁を注意深く取り除きながら、少しずつ大胆になっていく。ラウドになり過ぎず、ソフトにもなり過ぎず。そしてセカンドショウは、相手の胸に最初から思い切り飛び込むようなキスでした」
セットリストは毎回開演直前に決めた。
「今日はどんなお客さんが集まってくれているのか、自分の目で会場を見て、楽屋へ戻ってまぶたを閉じ、お客さんたちの思いをイメージして曲を選びます。客席の皆さんには、それぞれの人生があります。どの人生も豊かになってほしい。ショウのときだけでも一人一人の人生とコンタクトしたい」
リサのステージングは限りなくエモーショナルだ。2本のマイクをたくみに使い分けて、客席に語りかけるように、彼女の世界へいざなうように、ドラマティックにくり広げられていく。
「心のキャンパスに画を描くように私は歌います。ある時は景色を、ある時はシーンを、色鮮やかに思い浮かべます。マイクは絵筆です。メインマイクはリバーブが少なくクリアで、セカンドマイクはディレイがかかっています。この2本で、ときに大胆に、ときに繊細に、歌で物語を描いていくのです」
リサの音楽はジャンルを選ばない。ジャズ、R&B、ゴスペル、ロック、フォーク、オペラ......など、あらゆる音楽を絵巻物のように聴かせてくれる。
「私のルーツはモータウンミュージックです。子どもの頃に、両親が持っていた45回転のレコードを次々と聴いていったのが、最初の音楽体験。モータウンが、幼かった私の日々に灯りをともしてくれました。やがて教会に通うようになった私は、自分自身が歌う喜びを知ります。ゴスペルのクワイアで生まれたバイブレーションに胸が震え、シンガーへの道を歩き始めました。クラシックを真剣に勉強したのは大学時代です。声楽家になりたくて、ドイツやイタリアの音楽を学び、歌いました」
そしてプロになり、ロックと出会う。1989年にミック・ジャガーのソロツアーに参加したことをきっかけに、'90年からはローリング・ストーンズにも合流。スティングとも共演を果たしている。
「ストーンズのツアーには30年近く参加しています。ミック(ジャガー)を間近に見て"自由"を教えられました。彼はまるでジャングルを歩きまわるようにパフォーマンスをします。次の瞬間何が起こるのか─。誰にも想像できません。音楽は形式にこだわらなくていい。ジャンルに縛られる必要もない。ストーンズとの共演で、私は音楽のあらゆる概念から解放された。こうしてお話ししていると、私の音楽が、肉や色とりどりの野菜を一緒に煮込んだ濃厚なシチューのように思えてきました」
Photo by Makoto Ebi
- Ms. LISA FISCHER & GRAND BATON
- 2018 4.3 - 4.4
- LISA FISCHER(リサ・フィッシャー)
- 1958年、ニューヨーク出身。「ハウ・キャン・アイ・イース・ザ・ペイン」でグラミーを受賞。87年からはローリング・ストーンズのツアーに参加。2013年、映画『バックコーラスの歌姫たち』に出演。
photography = Hiroyuki Matsukage interview & text = Kazunori Kodate interpretation = Kazumi Someya