[インタビュー|OFFSTAGE]エリック・ベネイ
歌にプリンスへの感謝とリスペクトを込めた。
美しいファルセット、どこまでも伸びるロングトーン、自由自在のフェイク......。エリック・ベネイは、亡きプリンスへの思いを胸に歌い上げていった。
ショウの後半になり、それまで激しく動いていたエリック・ベネイがステージに用意された椅子に座った。ハンドマイクで歌い上げた曲は「How Come U Don't Call Me Anymore?」。2017年にこの世を去ったプリンスのカヴァーナンバーだ。
「ブルーノート東京の初日は、プリンスの一周忌だったからね。心からのリスペクトと感謝をこめて、あの曲を歌ったよ。僕はミュージシャンとして、プリンスの影響を受けている。でも、実はそれだけではない。一人の人間としてのプリンスの影響も受けている。僕のワイフはかつてプリンスのワイフだったんだ。それで、彼女を通して、プリンスの実像も聞いている。だから、亡くなったときは、ものすごく心が痛かった。その思いを胸に歌ったんだ」
MCで、エリックはモーリス・ホワイト、デヴィッド・ボウイ、ジョージ・デューク、アル・ジャロウ、ナタリー・コール、ジョージ・デュークなど、この数年で逝去したミュージシャンたちの名もあげ、感謝を語った。
「彼らは皆個性的だった。だから個性が注目されがちだけど、それ以前に音楽家としてのパワーや高い技術があった。そういった音楽の本質を僕は引き継ぎ、次の世代へとつなげていきたい。最近は、マーケティングというか、どんな音楽が受けるかを計算して音楽をつくっているミュージシャンが増えているよね。でも、創作とはそういうものではないはず。内に秘めた感情を作品にして、歌ったり、演奏したりするのがアーティストだと僕は思っている」美しいファルセット、どこまでも伸びるロングトーン、自由自在のフェイク......。4日間8公演、エリックはすさまじいレベルの歌を披露した。
「いつ日本に来ても、オーディエンスは熱く迎えてくれる。だから、客席が盛り上がる前提で、僕はショウを組み立て、歌うことができる。ステージと客席の相乗効果で、特別な空気が生まれるんだ」
では高いレベルの歌を維持するために、エリックはどんなことを心がけているのだろう。
「僕は主に3つを大切にしているよ。1つ目は、常にフィジカルを鍛え上げていること。シンガーは、喉だけではなく、体全体が楽器だと思っている。だから、常に体が鳴るように、毎日たっぷりの水を飲み、1週間に5日はエクササイズしている。51歳になった今、体のケアを怠ると、すぐに声に影響するからね。2つ目は常に限界を超えることを目指している。スティーヴィー・ワンダーとか、エラ・フィッツジェラルドとか、音楽シーンには過去も現在も圧倒的なシンガーがいる。彼らの歌を積極的に聴くんだ。ああ、かなわないな、と思うよ。でも、絶対にあきらめてはいけない。彼らのレベルを目指して歌い続けている。3つ目は、心の平穏を常に心がけている。ショウの前は特にできるだけ平常心でいられるように、朝からの時間を過ごそうと努めているよ。もちろん、ストレスをゼロにするなんてなかなかできない。それでも、常にその日のベストの状態をイメージしてステージに上がっている」
Photo by Tsuneo Koga
- ERIC BENÉT
- 2018 4.22 - 4.25
- ERIC BENÉT(エリック・ベネイ)
- 1966年、米ウィスコンシン州生まれ。90年代のニュー・クラシック・ソウルムーヴメントを牽引。「ジョージー・ポージー」他ビッグヒットを携え、"リアル・ソウルの伝道者"としてファンを魅了する。
photography = Hiroyuki Matsukage interview & text = Kazunori Kodate interpretation = Kazumi Someya