[インタビュー|OFFSTAGE]ミシェル・ルグラン
私がつくる作品は3分間の小さなオペラです。
「シェルブールの雨傘」「風のささやき」「おもいでの夏」など、世界中の誰もが知る名曲を生み続けきたミシェル・ルグラン。そのエネルギーの源泉は音楽への愛と美しい女性への愛。
「日本のお客さんはいつも私のことを温かく迎えてくれます。そして、意外なことに、若い人がたくさん集まってくれる。うれしいことです」
7月のはじめに4日間8公演行った作曲家でジャズピアニストでもある86歳の巨匠、ミシェル・ルグラン。彼がピアノで奏でる音楽からは、全曲、鮮やかな色彩が感じられた。会場は連日満席。ショウの前半はジャズが中心。そして、終盤に「シェルブールの雨傘」、『華麗なる賭け』のテーマ曲「風のささやき」、「おもいでの夏」など、ミシェルが生んだスクリーンの名曲が演奏された。
「音楽とはニュアンスです。つまり、色彩の微妙な違いによってできています。このニュアンスを私は演奏のあらゆるところで意識します。それが客席にも伝わる。オーディエンスの皆さんも色彩を感じてくれる。また、私は演奏中、いつも幸せをイメージしています。音楽とは、本来、音によって伝わる"特別な言語"によって伝えられ、それを読み解く技術を学んだ人にだけに伝わるものです。でも、質の高い音楽は技術を学んでいない人にまでも、何かミステリアスなものとして伝わっていきます」
ミシェルが言う頭の中でイメージしている幸せとは、具体的にはどんなものなのか。
「幸せとは、なにか1つの形をしているわけではありません。多くの素晴らしいものが複雑に混じり合って、幸せの頂は築かれています。私を愛してくれる人を私も愛する幸せ。生活のクオリティ、音楽のクオリティを常に意識し続ける幸せ。そして、生き続けることもまた幸せです」
80代後半になり、なお新しい音楽をつくり、アジアの片隅の日本までやってきて演奏するミシェルのエネルギーの源泉は何なのだろう。
「こうして音楽を続けるそのもっとも重要なものは、音楽への愛でしょうね。私は音楽を愛し、だからこそピアノもたくさん練習をするし、豊かな作品をつくる努力を重ねてきました。常に質の高い音楽を生み続けるためには、ふだんの生活でもたくさんの質の高い準備をしなくてはいけません。さらに、いい音楽家には共通して持つ資質があります。それは、美しい女性が大好きであることです」
いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
5年前の来日公演も、今回も、ミシェルはピアノを弾きながら数曲歌った。プロのシンガーの歌ではないが、しかし彼の歌は実に味わいがあり、客席にいる幅広い世代の男女の胸を震わせる。
「みなさんが私の歌を喜んでくれたとしたら、その理由はきっと私が歌を愛しているからでしょう。私のつくる音楽は、たとえ3分の短い曲だったとしても、それは小さなオペラです。物語です。私自身はその思いのもとに音楽をつくり、演奏し、歌っています。このようにして完成した音楽のすべてを私は愛しています。私にとって、特別な1曲はありません。自分の子ども全員を愛していることと同じように、自分の作品のすべてを愛しています」
Photo by Yuka Yamaji
- Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents MICHEL LEGRAND TRIO
- 2018 7.6 - 7.9
- MICHEL LEGRAND(ミシェル・ルグラン)
- 1932年、パリ生まれ。父は同じく映画音楽作曲家のレイモン・ルグランという音楽一家。パリ音楽院でブーランジェに師事し、卒業後はジャズ・バンドを結成。60年代に『シェルブールの雨傘』で今の地位を確立した。
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
interpretation = Hiromi Ishikawa