ロベン・フォードが新作とともに登場
アーシーかつ闊達な新作もリリース、唯一無二のブルージーなシンガー / ギタリスト。
ロベン・フォードときいて、何を思い浮かべる?
ある人はひっかかりある訴求力大のギタリストとして魅了されているかもしれないし、ある人は実直さと澄んだ感覚を持つシンガーとしての姿に着目するかもしれない。また、フォードのことをフュージョンの文脈で評価してきている人もいるだろうし、一方では得難い洗練を身にまとったブルース・マンであると彼を捉えている人もいるだろうし、さらにはアダルトさとアーシーさを両立させたロッカーとして愛好する人もいるだろう。さらには、すでに還暦越え(1951年生まれ)ながら、いまだ青年の佇まいを残す風体に引かれる受け手がいてもおかしくない。
だが、そうした様々な引き出しは、彼の属性や歩みがそのまま出たにすぎない。子供のころからブルースやジャズに親しみ(彼はジャズも好きだったことから、ギターを弾くとともに20歳ごろまでサックスも吹いていた)、1970年代中期からはセッション・マンとして大車輪し、同後期からはミュージシャンズ・ミュージシャン的な受け方もする(あのビル・フリゼールもフォードの技量に頭を垂れる最たる一人だ)個人アーティストとして活動する。その幅の広さは、ジミー・ウィザースプーンから、ジョニ・ミッチェルやチャーリー・ヘイデンといった関与作のリーダーの名前を見ても明らかだろう。
そんなフォードはここのところ、一段とリーダー活動に集中。昨年、トロンボーン奏者を擁するグルーヴィなバンド・サウンド作『ブリンギング・イット・バック・ホーム』をリリースし大々的にツアーを行ったと思ったら、1年後にはきっちり新作『ア・デイ・イン・ナッシュヴィル』を完成させた。これは、昨年行われたブルーノート東京公演のメンバーでもあったキーボード奏者のリッキー・ピーターソンやウッド・ベース奏者のブライアン・アレンと、スティング他とお手合わせをしている敏腕ドラマーのウェス・リトルら米国南部の最たる音楽都市であるナッシュヴィルのミュージシャンたちと自然のレコーディングを形にしたものだ。
覇気と渋さがナチュラルに同居した、ブルージィかつハートフルなアルバム......。そして、フォードたちは2月からその新作をフォロウする欧州ツアーに出ており、3月にはナッシュヴィルで新作発売記念のライヴも予定。その後、豪州バイロンベイ・ブルース・フェスティヴァル (かなりビッグなフェスです) に出演したあと、フォードたちはブルーノート東京に登場する。かように場数を踏んだ後だけに、新バンドのメンバー間の結びつきはより密なものとなっているのは間違いのないところだ。
ブルースという、渋くもエモーショナルな音楽様式を背骨に置く、豊穣な音楽素養や山ほどの音楽愛がしなやかに溢れ出るパフォーマンス。そんな実演に接した後には、きっとロベン・フォードというシンガー/ ギタリスリト/ バンド・リーダーの新たな像を得ることができるのではないだろうか。 (文・佐藤英輔)
- 佐藤英輔
- 音楽評論家。ドラマーのエル・ネグロ、ハープのエドワルド・カスタネーダ、リーダー/ピアニストのラリー・ハーロウ......。1月は、ラテンの底なしの技量や流儀に触れて、悶絶。いろんな音楽を聞ける幸福を実感。