ニューオリンズ発、老舗ジャズ・ハウスの専属バンド
ニューオリンズの伝統を明日に炸裂させる、
プリザヴェーション・ホール・ジャズバンド
ニューオリンズという街は、ジャズを育んだアメリカの数々の土地の中にあって、とりわけエキゾチックな響きがある。ミシシッピ川の濁った流れと、殆どが湿地帯であったという地理的条件が育む独特の気候。La Nouvelle-Orléans(New Orleans)としてフランス人によって設立され、スペインやアフリカ、クレオールなど様々な要素が混在して育まれた独特の文化。とりわけ旧市街のフレンチ・クオーターは、胸騒ぎを覚えずにはいられない混沌としたエネルギーに溢れている。それでいて、たとえ初めて訪れたものにとっても、どこか懐かしい安心感が空気に漂う。プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド(Preservation Hall Jazz Band、PHJB)は、そんな摩訶不思議な街・ニューオリンズが生んだ伝統的なジャズを世に広めようと、1961年に設立されたプリザヴェーション・ホールの専属として誕生したバンドである。
以来、顔ぶれが変わりながらもPHJBはトラディッショナル・ジャズの魅力を伝え続け、2012年1月には50周年記念コンサートをニューヨークのランドマーク、カーネギー・ホールで行うに至った。そんな彼らが昨年、バンド史上初めてオリジナル書き下ろし曲だけを収録したアルバム、『ザッツ・イット!』をリリースした。ニューオリンズの伝統に育まれながらも、60年に向けて新しい歩を進めようとする彼らの決意が感じられるアルバムなわけだが、そんなアルバムを引っ提げてPHJBはツアーを挙行、昨年11月16日には、ニューヨークのもう一つのランドマーク、アポロ・シアターで初ライブを行った。
photography:Dino Perrucci
この日のライブは、20歳代から80歳代までと、ジャズの伝統がそのまま詰まったかのように幅広い年齢層の9人(うち一人はゲスト)で繰り広げられたわけだが、そのヴァイタリティーの深さは、正直なところ予想を遥かに裏切るものだった。前座無しでいきなり彼らが登場すると、踊り出したくなるフィールグッド感に溢れながらも、ベテランと若手が競い合い(そして支えあいながら)2時間近く、あっという間に白熱のクライマックスへと到達してしまったのだった。例えば81歳のチャーリー・ゲイブリエルは、エレガントなヴォーカルだけでなく、クラリネットとテナー・サックスでも大活躍する。それに刺激されるかのように、中堅どころのロネル・ジョンソンやフレディ・ロンゾも、力強いヴォーカルとともに、それぞれの楽器でも炸裂する。その感覚はまさしく、懐かしい安心感と胸騒ぎの街、フレンチ・クオーターそのものだ。
中にはパラソルを広げて踊り出す観客もいたが、あれもニューオリンズのスタイルなのかしらん?何はともあれ、伝統というものは侮れない。伝統に根付きながら、いや根付いているからこそ、『今日』を炸裂させるPHJB。日本でもきっと、その底力を発揮してくれるに違いない。
プリザヴェーション・ホール(Preservation Hall)
真のアメリカ芸術の一つである伝統的なニューオリンズ・ジャズの存続を目指し、1961年に設立されたベニュー。ニューオリンズのフレンチ・クオーターにあるホールでは、様々なアーティストによるライブが連日のように行われていとともに、同ホールを拠点とするプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドも、世界中でツアーを展開している。
- 小林伸太郎(こばやししんたろう)
- ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、パフォーミング・アーツ全般について執筆寄稿、日本の戯曲の英訳も手掛ける。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒。カーネギー・メロン大学で演劇を学んだ後、アートマネージメントで修士号取得。ニューヨーク在住。
Special Message from TOKU
わお!すごいパワー! Preservation Hall Jazz Band のニュー・アルバムの1曲目、"That's It!"が始まるともう一気にニューオリンズに連れていかれる! 思い返せば、僕が初めてニューオリンズを訪れたのは語学留学中の'93年。ジャズを始めて1年も経っていなかったけど、Preservation Hall に彼らの演奏を聞きに行った時は、そのホールの雰囲気、そしてミュージシャン達の存在そのものに圧倒されたのを覚えてる。ステージにはまさに彼らの人生そのものがありました。そして、今回の来日は38年ぶり! 50年以上に渡ってニューオリンズのジャズを受け継いできた彼らの人生をぜひとも感じてほしい!