人気拡大中、"奇跡の歌声" が日本へ
フォーク、カントリー、R&B、
ブルースがブレンドされたサウンドと
奇跡の歌声、オバマ夫妻も魅了した話題のシンガーが初来日!
フォーク、ブルース、ソウル、ブルーグラス、カントリー等を絶妙に融合させ、新世代の感性を加えたニューアメリカーナ系のシンガーソングライター、ヴァレリー・ジューン。ちょっと鼻にかかった独特の甘い歌声とカリスマ性のあるステージ、ゆったりした南部訛りで愛くるしさ溢れる彼女の魅力に迫る。
photography = Shino Yanagawa interview & text = Keiko Tsukada
日本ではまだその存在があまり知られていないヴァレリー・ジューンだが、アメリカではノラ・ジョーンズやブッカー・T・ジョーンズ、故シャロン・ジョーンズとのツアーにも参加したり、最新作『ジ・オーダー・オブ・タイム』がローリングストーン誌で2017年上半期ベスト・カントリー&アメリカーナ・アルバムのトップ25に選ばれるなど、その人気を確実に広げている。ギター、バンジョー、ウクレレを弾きこなし、少女のような自由さで達観したスピリチュアルで普遍的なメッセージを歌い上げるヴァレリー。独自のファッションや18年かけて伸ばしたドレッドロックヘアーにも、彼女の個性が光る。
テネシー州メンフィスで育ち、同州出身のティナ・ターナーやドリー・パートン、カーラ・トーマスに影響を受け、ラジオから流れるピンク・フロイド、トレイシー・チャップマン、ホイットニー・ヒューストン等を聴きながら育ったというヴァレリー。しかし彼女の歌のルーツは、宗教的にこそならなかったが、生まれたときから信心深い両親に連れられて18年間通い続けた教会に深く根ざしているようだ。
「聖歌隊やバンドがある南部の多くの教会とは大分異なっていて、教会に来ていた500人の人たちと一緒に歌うことを学んだのよ。白人もいれば黒人もいて、みんな歌い方が違うの。毎週違う人の横に座って彼らの声を聴いて、その声の後について歌ったわ」
最近では彼女の声が「ビリー・ホリデイの声を思い起こさせる」とよく言われることから、ビリーの音楽をよく聴いていると言う。「ビリーの声の乾いたところや感情的な部分がその要因じゃないかしら。非常に変わった声をしているカレン・ダルトンも好き。私は楽器も弾くけれど、この声こそが私の音楽を創っているのよ」
高校のアートの先生が弾くアコースティックギターのサウンドに惚れこみ、祖父からアコースティックギターを譲ってもらったのが楽器との出会い。後に独学で5年かかってギターを習得し、オープンマイクやカフェでショウをやりながらブートレグを制作し、2013年にはクラウドファンディングを利用して、ザ・ブラック・キーズのダン・オーバックらをプロデューサーに迎え、ついにデビュー作『Pushin' Against a Stone』をリリース。そして2017年にはヴァレリーの最高傑作との声も高い『ジ・オーダー・オブ・タイム』をリリースする。「時間」をテーマにしたこのアルバムのコンセプトを彼女はこう説明する。
「私達は人生や社会でムーヴメントや変化を起こしているけど、今すぐ結果を出したがっているわ。でも物事は、思いやりや友情、癒し、自分の感情を表現すること、別の人種や年齢の人たちと会話を持ったりっていう、小さなたくさんの段階を踏んで起こっていくものなのよ。前作のコンセプトとも似ているんだけど、今作では、美しい世界を創りだすために、日々少しずつ自分たちの役割を果たしていくことを伝えているの。夢や目的のための種を植えて、必要なものを与えて、時には押してみながらも、待つことも必要なの。時間をかけるのよ」
まだミュージシャンになることを夢見ていた27歳の頃、糖尿病と診断されたことから、「まだレコードも作ってないし、世界中を回って私の曲を共有してないのに、死にたくない」と恐怖に陥った過去を振り返る。しかしその経験があったからこそ、「その時以降、エネルギーのすべてを自分の音楽、作品を人と共有することだけににフォーカスしよう」、と自分に言い聞かせ、ここまで辿り着くことができたと告白する。
日本公演に連れて行くバンドメンバーには、最新作『ジ・オーダー・オブ・タイム』のほぼ全曲を制作したマット・マリネリがベースを、NYのエクスペリメンタル・ジャズ界で活躍するドラマーのライアン・ソイヤー、ザ・キャンドルズとも演奏している B 3オルガン奏者のピート・レム(新作でも演奏)、エレクトリックギターのアンディ・マクラウド(新作でも演奏)を迎え、『ジ・オーダー・オブ・タイム』の雰囲気やサウンドを十二分に再現してくれそうだ。
特に今回のショウは、アリス・コルトレーンの 『Transcendence』というレコードをイメージしながら、正に「超越」するような、聴く人のハートに明かりをつけるような経験を、日本のオーディエンスに楽しんでもらいたいと語るヴァレリー。そして彼女が持つ小さな光と聴き手の中にある光を繋げていくことこそ、音楽を通して彼女が実現したいことなのだと力説する。最後にこの11月に満を持して初来日し、ブルーノート東京での公演を果たすヴァレリーに、その心境を尋ねてみた。
「大勢のミュージシャンから、日本は美しくて全くの別世界だって聞いているの。食べ物に文化に、もう待ちきれないわ! 日本のファッションもフォローしているし、日本の音楽にも興味があるの。初めて日本を訪ねて私の音楽を共有できることにとっても興奮しているわ!
- ヴァレリー・ジューン
- 1982年、テネシー州生まれ。オバマ前大統領やザ・ブラック・キーズをも魅了、ジェイク・バグ等とのツアーを経てアルバム・デビュー。今春リリースしたセカンド『ジ・オーダー・オブ・タイム』はマット・マリネリをプロデューサーに迎えノラ・ジョーンズも参加。
『ジ・オーダー・オブ・タイム』
(Concord / Hostess)
8/27、ニューヨークのCentral Park Summerstage Festival 2017に登場。
The EXP Series
今後の音楽シーンをリードする可能性を秘めたアーティストを紹介する企画。「EXP」にはExperience(=オーディエンスの体験/アーティストの経験)、Experiment(=新たな試み)、Exposure(=多くの人の目に触れること)の意味が込められている。過去にはジェイコブ・コリアーや桑原あい、ブランディー・ヤンガーが出演。
- 塚田桂子(つかだ・けいこ)
- 音楽の背景に在る人、文化、社会、政治を追う音楽ジャーナリスト。在米20年の間に数多くのミュージシャンやプロデューサーの取材、ヒップホップやR&Bアルバムのリリック翻訳、ライナーノーツ執筆等を手掛ける。LA在住。