しなやかにお茶目に進化する矢野顕子トリオの表現
「今までで一番楽しいライヴに!」
矢野顕子が語る、トリオの10年
ウィル・リーとクリス・パーカーを擁する矢野顕子トリオが今年も、夏のブルーノート東京に登場する。なんと、トリオ結成10周年!音楽的なつながりに終わらぬ絆を抱える、家族的な共同体へと進化してきた彼女たちに祝福あれ。
interview & text = Eisuke Sato
photography = Mayumi Nashida
矢野顕子トリオの公演が近くなると、もう夏も山場であるのだなと思わせられる。NHKホールで毎年12月に持たれる「さとがえるコンサート」の時期になると、もう師走なんだなと感じずにはいられないように......。
それも、当然だろう。この15年もの間、秋にやったこともあったものの矢野顕子はブルーノート東京で夏場に帯公演をずっと持ってきているのだから。まさに、"ブルーノート東京、夏の風物詩"? 当初はアンソニー・ジャクソン(ベース)とクリフ・アーモンド(ドラム)とのトリオで行ったり、またNYボーダーレス・ミュージック界の異能ギタリストであるマーク・リーボウとのデュオを披露したこともあった。そして、2009年8月の公演からベーシストのウィル・リーとドラマーのクリス・パーカーという顔ぶれによる新トリオがスタート。以降ずっと、矢野顕子のブルーノート東京公演はこの3人によって持たれてきている。つまり、今年は矢野顕子トリオが結成されて10周年となる。
「この最近の4年くらいで、私たちは完全にバンドとしての家族性を確立しました。もうどこへ行ってきたにしろ、この家族の中に帰ってくるというbonding(絆)を持っています。基盤になっているのは、矢野顕子というアーティスト及び人間に対する敬意です。10年かけて、私は彼等からの音楽的にも人間的にも信頼をもらったんだなあと思います」(ここに引用する彼女の発言は、7月中旬に行ったメールによる質疑応答によるものだ)
歌うことも大好きでリーダー・アルバムも複数出しているウィル・リーは、ファースト・コールのべーシストであり、まさにミュージシャンズ・ミュージシャン。パット・メセニーが自分のユニティ・バンドにジョルジ・カルマッシという一般的には無名のイタリア人のマルチ・プレイヤーを入れたことがあった(パット・メセニー『KIN(←→)』)が、その採用理由をパットに尋ねたら「だって、ウィルの推挙があったから。他の人ならともかく、彼は信頼できる」。一方、クリス・パーカーはスティーヴ・ガッドとリズム隊のコンビを組んだスタッフの活動で知名度を得た奏者だが、ボニー・レイットからパティ・ラベルやクインシー・ジョーンズ作までに関与する百戦錬磨の敏腕ドラマーである。なんにせよ、その両者が飄々と繰り出す演奏を目の当たりにすると、NYを拠点に置くミュージシャンたちの技量の立ち方や感度の高さに、うならされてしまうこと請け合い。そんな2人について、矢野顕子は次のように説明する。
「ウィルは誰もが一緒にプレイしたいと思うミュージシャンですから彼のスケジュールを取るのは大変難しいのですが、このトリオのためには毎年スケジュールを取り分けてくれるのです。クリスはウィルのもっとも古い友人の一人でもあり、この2人が作れる鉄壁のグルーヴを、私の曲を通して演奏する喜び、というのを3人がしっかり共有しているというのが、このトリオの魅力だと思います」
彼女の2012年作『荒野の呼び声─東京録音─』に収録された半数の曲は、このトリオ初期となる2009年と2010年にブルーノート東京で録音されたテイク。そして、その後もこのトリオはどんどん成長、遊び心と変幻自在さを増し、取り上げる素材もどんどん広げてきている。そして、その広がりはウィルとクリスの演奏の幅にも如実に現れている。たとえば、近年ウィルはコーラスを取ったりヴォーカルのデュエット役を務めるだけでなく、小さなシンセサイザーを弾いたり、ハーモニカを吹いたり、大胆にベース音にエフェクター効果をかけたりもする。それは、このトリオは次に何をやってくれるのという聞き手の感興も引き出す。
まさしく、成熟しているのに好奇心を失わないミュージシャンたちのプレイグラウンド? 「より互いへの理解が増しているので、それが音に現れている」し、「このトリオでの日本公演は私にとっても、おそらくウィルとクリスにとっても、心待ちにしているものだと思います」とも、矢野顕子はウィル・リーとクリス・パーカーとのパフォーマンスを説明。その忌憚のない3人の会話はまさにバンドの醍醐味やマジックを携える。3人が揃った今回のブルーノート東京公演に向けたトレイラー映像(https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/akiko-yano/)で語られているように、結成10周年を迎える今回のショウは、その10年間をくくり、3人の新たな大志を伝えてくれるものになるはずだ。
「今までで一番楽しいものになると思います。どうぞ皆さん、いらしてください」、それが、彼女のメール・インタビューの結びの言葉だ。絶大なる信頼関係を軸に、しなやか且つお茶目に進化するトリオ表現。それは、ジャズを知っている先に音楽の楽園を獲得しようとする選ばれた音楽家たちの創意を鮮やかに浮き上がらせる。そして、そこには音楽をする歓びやスリルと確かな歌心が横たわる。それが、矢野顕子トリオの素敵である。
photo by mickpark食へのこだわりも持つ矢野さんが小誌JAMにも登場! メンバーとの貴重な食事シーン。
photo by Takuo Sato
初登場は2009年8月、3人がライヴで初めて顔を合わせた。「BAKABON」、「ROSE GARDEN」、「ごはんができたよ」など、おなじみの曲もたっぷり聴け、忌野清志郎に捧げた「きよしちゃん」も披露された。
- 佐藤英輔(さとう・えいすけ)
- ロックやファンクからジャズまで、変てこだったり、狭間にあるものを好む物書き。快楽的なものと、ライヴ好き。それに主に触れたブログは、http://43142.diarynote.jp 。
INFORMATION
AKIKO YANO × BLUE NOTE TOKYO
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