今秋の来日を控えたジェイコブ・コリアー、ロンドン公演の最新ライブ・レポートが到着!
驚異のパフォーマンスで世界を席巻する若き才能が、
ロイヤル・アルバート・ホールで見せた壮大なステージ
「ある特定の楽器にこだわるのではなく、全ての楽器を演奏して"音楽"を奏でたいんだ。」 そう語るジェイコブ・コリアーは、ヴォーカルを重ねてハーモニーを築き上げ、ピアノからドラム、ベース、ギターとあらゆる楽器を軽やかに演奏。それを多重録音しながら驚異的なワンマン演奏を繰り広げる。演奏という領域にリミットはない、そんな多重録音の天才と呼ばれる彼の今年最大のプロジェクトが、世界的クラシック音楽の祭典The Promsで実現した。
text = mari* Kimura
The Promsは、毎年7月からおよそ8週間、ロンドンが誇るコンサート・ホール<ロイヤル・アルバート・ホール>で開催されるコンサートシリーズだ。 始まりは1895年とその歴史は長く、コンサートの模様はBBCのラジオとテレビの両方で放映され、イギリスの夏の風物詩ともいえる国民的イベントだ。The Promsの目的は、多くの人にクラシック音楽を楽しんでもらうこと。世界を代表する作曲家や指揮者によるコンサートから若き作曲家を紹介する企画まで、バラエティに富んだプログラムでイギリスの夏を彩っている。
BBCで番組を制作するプロデューサーによると、The Promsのヘッドライナーに選ばれるということは、イギリスに認められたということになるそうだ。まさに音楽家にとってドリーム・ステージである。「JACOB COLLIER AND FRIENDS」と名付けられた本コンサートは、今年の目玉企画の一つで、ステージには70名以上の音楽家が集結した。 ジェイコブが招待した"FRIENDS"は、ジャズとポップスを演奏することでは唯一無二と評価される<メトロポール・オーケストラ>、 ジェイコブのベスト・フレンドであり新譜ではプロデュースを手がけているシンガー・ソングライター<ベッカ・スティーブンズ>、フォークシンガーの<サム・アミドン>、そしてアカペラ・グループ<Take 6>だ。 それだけではない! モロッコから伝統音楽グナワの最高峰<ハミッド・エル・カスリ>を招き、彼らのイギリス初公演を実現するといった豪華な内容だ。
これまでに、The Promsで何度も指揮者を務めてきた<ジュールズ・バックリー>は、本コンサートについてこう語った。
「マルチ奏者である彼の頭の中を再現するコンサートにするんだ!」
そしてジェイコブの意気込みもアツかった。
「こんなに長い時間をかけてコンサートを計画するのは初めてです!僕の頭の中にある音楽を最高の形で再構築するんです。 それを初披露する場所はThe Prom以外に考えられません!」
平日にもかかわらず<ロイヤル・アルバート・ホール>の前には、当日券を求める人々の行列ができ、開演の時間にはコンサートは見事に満席状態になっていた。オーケストラが席につくと、元気いっぱいのジェイコブが登場!ステージの端から端まで駆け抜ける彼の姿に誰もが笑顔になった。コンサートは、アカペラでスタート。グラミー受賞作品『In My Room』から「Don't You Know」だ。声のハーモニーでぐっとオーディエンスを惹きつけるイントロダクションにつづいて、オーケストラの演奏がはじまった。ジェイコブは演奏をグランド・ピアノに切り替え、次の瞬間にはタンバリンで観客の拍手を煽りながら、ステージを自由に動き回りながら熱唱していた。彼が楽器をギターに持ち替えると2曲目がスタート。ストリングスの美しい旋律の上で、ギターとグランド・ピアノを行き来しながら演奏されたスローナンバー「Hideaway」は、まるで映画のサウンド・トラックのようだ。 オーケストラと共演により、作曲家、アレンジャーとしても高く評価される彼の楽曲がよりゴージャスに響きわたっていた。グランド・ピアノを弾く彼の姿は、まさにジャズ・ミュージシャンだ!まだ2曲目だというのに、彼のマルチな才能が炸裂し、新しいジェイコブの表情と才能がどんどん披露されていくのであった。
ワンマン演奏で脚光を浴びてきたジェイコブだが、音楽家一家で育った彼は、家族や友達と演奏することが大好き。本コンサートでは、ジェイコブが音楽家とどう対話するのか?そこでどんな魔法が起こるのかが見どころでもあった。歌う時はオーディエンスに語りかけるように優しく。 そして共演者が奏でる楽器をリスペクトし、音色や楽器同士のエネルギーを吟味しながら数々の楽器の演奏に望んでいた。時には指揮者のようにオーケストラを仕切る姿は、もう少年ではなく、一流ミュージシャンのオーラを発揮していた。
© BBC/Mark Allan
フォークシンガーの<サム・アミドン>とは彼の楽曲「Pat Do This, Pat Do That」を歌い、ピアノを演奏。そして「スティーヴィー・ワンダーを好きな人はいるかい?」とオーディエンスに問いかけ、会場全体がワクワクしたところで、スティーヴィーの名曲「As」をゲスト2組と演奏。ウクレレを弾きながら歌うベッカとのパートはギターでデュエットを。<Take 6>とはアカペラのハーモニーを作り上げた。そして<ハミッド・エル・カスリ>との共演では、グナワ音楽、ポップス、そしてオーケストラによるビッグバンドのサウンドが交互に行き交い、どんな世界に導かれているのか正直分からなくなってしまいそうなスリリングな瞬間もあったが、どんな冒険も怖がることなくチャレンジし、独自の世界を作り上げるのがジェイコブの魅力。モロッコから音楽家を招待し、この異色のコラボレーションを成し遂げたそのエネルギーと音楽への好奇心はカリスマ的だ。 ちなみに、ヴァイオリン奏者であるジェイコブの母<スーザン・コリアー>は、本コンサートで、オーケストラのメンバーとして参加しており、コンサートの後半ではソロを披露するシーンもあった。ゲスト、指揮者、そしてオーケストラまで、ジェイコブと演奏するのが楽しくてしかたないという笑顔で演奏しているそのステージはキラキラしていた。
「ロンドンで育った私は、何度もこのThe Promsに足を運んできました。こうしてここで演奏できるなんて、まるで夢のようです!」
彼が感謝の気持ちと、夢の実現に高まる気持ちを、観客とシェアすると温かい拍手が会場に沸き起こった。
© BBC/Mark Allan
本コンサートでは新曲も演奏された。「Djesse」と「Ocean Wide, Canyon Deep」だ。 なんとジェイコブは<ジュールズ・バックリー>と<メトロポール・オーケストラ>と共に作品を作っているということで、その共作の初お披露目となった。さらに、スティングの「Every Little Thing She Does is Magic」や、ライオネル・リッチーの「All Night Long」といった誰もが親しめるようなナンバーが取り入れられた、老若男女、ジェイコブ・ファンからそうでない方までが、豪華なライヴ演奏に酔いしれることができる素晴らしいプログラムであった。 ジャズ、ポップス、クラシック、そして無限の音のハーモニーが存在する壮大な音楽の冒険は、スタンディング・オベーションで幕を下ろした。10月に開催される日本公演は、ブルーノート東京シンフォニック・ジャズ・オーケストラとの共演ということなので、さらに言葉を越えた音楽の対話が期待できる。ジェイコブのオリジナリティとグレードアップした音世界、その両方が楽しめるオーケストラとの共演コンサートは、多くの人を笑顔に、そして感動させるワールドクラスのコンサートである。
© BBC/Mark Allan
mari* Kimura- ジャイルス・ピーターソンが設立したラジオ局WORLDWIDE FM (worldwidefm.net)のシニア・プロデューサー/編成/DJ。担当番組 "oto nova Japan(音の波)"では日本発の音源や世界を舞台に活躍する日本人アーティストを紹介。 J-WAVEやNHK をはじめ日本のラジオ局でもレポートや番組コーディネートを担当。ロンドンを拠点に日本と世界を音楽で繋いでいる。
https://www.instagram.com/marinx611/
Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents
JACOB COLLIER with BLUE NOTE TOKYO SYMPHONIC JAZZ ORCHESTRA
2018年10月8日(月・祝)
16:30 開場 17:00 開演
会場:すみだトリフォニーホール
※チケットは、ブルーノート東京オンラインストア/店頭、各プレイガイドなどで絶賛発売中!
詳細はこちらから→ https://www.bluenote.co.jp/jp/event/jacob-collier-triphony/