ロン・カーター&ケニー・バロン、スペシャルインタビュー | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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ロン・カーター&ケニー・バロン、スペシャルインタビュー

ロン・カーター&ケニー・バロン、スペシャルインタビュー

ブルーノート東京 29周年スペシャルインタビュー
音を探し共鳴し合う そして毎晩、音楽が生まれる

この5月にめでたく80歳の誕生日を迎えたロン・カーターが、60年越しの盟友ケニー・バロンを迎えたアンサンブルと共にブルーノート東京に帰ってくる! ロンの自宅にケニーを迎え、ニューヨーカー独特の痛快な皮肉やユーモアを交えながら、ジャズ界の重鎮同士が、ふたりの歴史~今をじっくり語った。

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photography = Shino Yanagawa[interview], Yuka Yamaji[live]
interview & text = Keiko Tsukada Transcribe Adviser = Demetrio Kerrison



世界が認めるジャズの権威でありながらもなお、毎晩「より良い音を探している」と語ったことがあるロン・カーター。その姿勢には思わず頭が下がる。

「私は毎晩、一緒に演奏する人たちがいつもと違った感覚で演奏できる方法を見つけようとしている。例えば「Autumn Leaves」を演奏するとしたら、彼らが先週とは違った演奏ができるようなベースラインを見つけるのが、私の仕事なんだ。それを実現するために、私は常に状況に合った"相応しい音を探している(finding right notes)"」

 70年代にユセフ・ラティーフと演奏した経験から、即興の素晴らしさを学んだと言うケニー・バロン。時に"冒険好きなピアニスト"とも呼ばれるケニーの所以が見えてくるようなコメントが興味深い。

「ユセフは非常に冒険好きな人でね。まるでその気になれば足でもピアノを弾けるような気分になったよ。もちろん実際にはそんなことしなかったがね。でもそれくらい彼には冒険心があり、色んなことにオープンで、常に何かを探し求めていた。だから彼のそういう面が助けになったよ」

 スタイリッシュな紳士としても有名なロンは、「オーディエンスは音楽だけでなく、我々のファッションまで見ている」と主張する。そんな彼のファッション美学と音楽の関係に迫ると、ふっとほくそ笑む。

「私たちが演奏する姿や、ステージに上がる前の姿を見たことがあるならご存知かと思うが、私たちはちゃんと着飾って仕事に行くのだとオーディエンスに知らせているんだ。プレイせずに自分たちを身体的に紹介するようなものだ。それがミュージシャン達の考え方なのだと思う。見た目だけじゃなく、演奏も素晴らしい。なぜなら身体的にも素晴らしい音楽を演奏する準備ができているからだ」

 ロンとケニーのトークは、まるでいたずら好きな少年のように笑いが絶えない。「お互いについて語ってください」とお願いすれば、ロンは「嫌だね」と即答し、ふたりは大爆笑。「ではお互いのことを尊敬していますか?」と訊けば、「いいや」とロン。「ではケニーからどうぞ」と振れば、「それは難しいね」とボケて見せるケニー、といった具合に、尊敬と親愛の情故の照れ隠しや突っ込みがテンポよく飛び交う。そんな中で、ケニーだからこそ知り得るロン像を、実に粋に語ってくれた。

「彼はベースを弾くからね、BASE("底辺"のベース。楽器のBASSともかけている様子)だよ。ピアノ奏者の私にとって重要なんだ。彼がふさわしい音を探していると言っていたように、それが私のピアノをうまくいかせるんだ。私は個人的にベース奏者には"(低い声で囁いて)ボトム"を弾いてもらうのが好きでね。だからミスター・カーターのベースはBASEなんだよ」

 そこで、「それではミスター・BASE、いかがでしょう?」とロンに振ると、散々照れ隠しのジョークを飛ばしながらも、ケニーへの賞賛を惜しみなく語ってくれた。

「ケニーの隣に座るチャンスはたくさんあったよ。敢えて彼をそこに座らせたんだ。先週、友人とツアー中にレコードを探していたら『Piccolo』(1977)を見つけて、久しぶりにバスター・ウィリアムス、ベン・ライリー、ケニー・バロンとのカルテットを聴いたんだ。あの頃のサウンドを聴いていて、彼らと演奏することがいかに恋しかったかを更にいっそう思い出してね。編集もオーヴァーダビングもなし、ただギグを演っているだけ! 素晴らしいセッションだったよ。もしもピアノプレイヤーがギグでどうプレイすべきかを例に挙げるなら、このレコードだ!」

 そして今年80歳の誕生日を迎えたロンのキャリアを振り返り、ケニーはこう語る。

「彼には非常に長いキャリアがあるし、ジャズの歴史上最もレコーディングされたベーシストだ。彼の功績、音楽や人生へのアプローチの仕方を目にすることができるのは、光栄なことだよ」

 今回彼らの来日公演中11月28日に29周年、来年で30周年を迎えるブルーノート東京。長年の常連でもあるふたりに、この歴史的な会場への思い入れを尋ねると、ケニーからは、その人柄が表れるようなコメントが返ってきた。

「あそこで演奏するのが大好きだよ。ピアノの面倒をよく見てくれる。ほぼ毎日調律して、羽ぼうきで掃除もしてくれる。クラブもドレッシングルームも快適だし、ステージを降りると冷たいタオルを手渡してくれる。そういう小さなことが嬉しいよね。それにそこで働く人々がとても親切でいい人たちなんだ」

 そしてロンはケニーに同意しながら、その職人魂が垣間見れるロンらしい想いを語ってくれた。「私が気に掛けているのは、ギグの間ずっと彼らが同じ音響機器と音響スタッフを使ってくれることであり、ずっと同じサウンドの状態であって欲しいと願っている。それらが変わってしまうと、同じ曲でもサウンドが変わり、毎晩命懸けで戦う羽目になる。サウンドに復讐されるのさ。ブルーノート東京は音響スタッフをずっと維持してくれていてる。私にとっては実に重要なことなんだ。本当に感謝しているよ」

 幸運にも9月にLAで行われたロンとケニーの各々のトリオのライブを聴ける機会に恵まれ、魂に染み渡るような極上の時間を過ごさせていただいた。このジャズ界最高峰の息の合った盟友同士のライブ演奏は、ブルーノート東京で今回もまた、聴き手の心に響く極上の時間を届けてくれることだろう。

<PROFILE>

 

ロン・カーター
1937年、米国ミシガン州生まれ。63〜68年までマイルス・デイヴィス・グループに在籍し、知的な奏法と完璧な技巧でジャズ界屈指の存在として名声を確立。ベーシストに与えた影響は大きく、"ジャズ・ベースの神様"と称される。

 

ケニー・バロン
1943年、米国フィラデルフィア生まれ。ディジー・ガレスピーやスタン・ゲッツら数多くの巨星を魅了し、ユセフ・ラティーフ、ロン・カーター、フレディ・ハバードらのバンドで活躍してきた現代ジャズ・ピアノの最高峰。

NY在住、ロン・カーターの自宅で取材! その音楽が生まれる場所をご紹介します。

俳優やミュージシャンが多く住むアッパーウエストサイドに位置するロンの自宅を訪ねると、洗練された家具やアート作品がセンスよく置かれた空間に、彼が選曲したジャズが心地よく流れる。
彼の極上のベースプレイと粋なファッションから感じさせるこだわりは、お洒落な私生活の中にも様々な部分で垣間見え、インスピレーションがここから生まれるのも納得だ。

塚田桂子(つかだ・けいこ)
音楽の背景に在る人、文化、社会、政治を追う音楽ジャーナリスト。在米20年の間に数多くのミュージシャンやプロデューサーの取材、ヒップホップやR&Bアルバムのリリック翻訳、ライナーノーツ執筆等を手掛ける。LA在住。

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