原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

1999年のファースト・アルバム『サウンドトラック・トゥ・ヒューマン・モーション』から16年。一貫して名門ブルーノート・レーベルから作品を発表し続けるジェイソン・モランが、ブルーノート東京に待望の初登場を果たしました。ミシェル・ンデゲオチェロとドン・ウォズが共同プロデュースした最新作『オール・ライズ』を携えての来日です。

この作品は、1920年代から40年代前半にかけて大活躍したエンターテイナー、ファッツ・ウォーラーに捧げられています。彼はピアニスト、シンガーであると同時にジャズ・オルガンの草分けでもあり、すぐれたソングライターとしても歴史に名を残しています。ジャック・ブラック（チャーリー・ヘイデンの義理の息子）やモス・デフが出た映画「僕らのミライへ逆回転」（Be Kind Rewind）で、ウォーラーが大いにリスペクトされていたことをご記憶の方も多いと思います。

ステージはまず、ウォーラーとは直接関係のないナンバーから始まりました。伝説のギター奏者、ウェス・モンゴメリーが書いた「Four On Six」です。ジャズ・ギタリストには聖典といえる楽曲ですが、ピアノ主体のバンドで演奏されることは極めて珍しいですね。ジェイソン、タラス・マティーン(エレクトリック・ベース)、ナシート・ウェイツ（ドラムス）は、もう15年も続いているユニット"バンドワゴン"のメンバー。コンビネーションは完璧といっていいでしょう。

続いてジェイソンは、ウォーラーのマスクをかぶってピアノに向かいます。演奏されたのは「The Joint Is Jumpin'」、「Ain't Misbehavin'」。いよいよ『オール・ライズ』の世界に突入です。もちろんジェイソンは80年前の巨匠の演奏をコピーしたりはしません。全部の糸を解きほぐし、新たな編み物に仕立て上げていくかのようなアプローチでした。ゲストのアリシア・ホール・モランは「～Misbehavin'」の後半から登場。オペラ歌手が「ブルーノート東京」に登場するのは、これが初めてかもしれません。デューク・エリントン「リベリア組曲」からの「I Like The Sunrise」、夫君ジェイソン作「Life,Live,Time」等を歌い上げました。

オーラスは、ジョージ・ガーシュウィン作「Summertime」。もともとフォーク・オペラ「ポーギー＆べス」のために書かれた名曲が、アリシアのメゾ・ソプラノでドラマティックに表現されました。しかもこのナンバーは、冒頭に演奏された「Four On Six」の原曲でもあるのです。プログラム全体がひとつの輪になっているような印象を、ぼくはこの夜に感じました。
(原田 2015 1.19）

●JASON MORAN - piano solo -
2015 1.21 wed.　＠コットンクラブ