2009.03.17
IVAN LINS
artist IVAN LINS
- 原田和典の公演初日レポート : IVAN LINS
ぼくはブログ・ページ「WHAT’S HAPPENIN’」を読むのが楽しみです。自分のような音楽狂でも知らない超マニアックな情報や、内容の濃いエピソードがさりげなく紹介されているところがまた、食指をそそります。
先日は、「スティングが、かつてマイルスも」とタイトルされた記事に驚かせていただきました。
“ジャズの帝王”と呼ばれたトランペット奏者、マイルス・デイヴィス(1991年死去)がイヴァンの才能をとても高く評価したこと。そして、イヴァン作品集を演奏するプランを持っていたことを、不勉強にして「WHAT’S HAPPENIN’」で初めて知りました。
マイルスは常に美しいメロディを探し求めていたアーティストです。クラシック・ギター用に作曲された「アランフエス協奏曲」をジャズ・ミュージシャンとして(おそらく)最初に取り上げ、アントニオ・カルロス・ジョビン、ミシェル・ルグラン、“クロスビー、スティルス&ナッシュ”などの曲も見事“マイルス流”に生まれ変わらせました。80年代にはマイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」やシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」を繰り返し演奏していました。そんなマイルスにとって、イヴァンの曲は旋律の宝庫に思えたことでしょう。
マイルス・プレイズ・イヴァンは残念ながら幻に終わりましたが、’96年、興味深いプロジェクトが完成します。人気ジャズ・トランペッター、テレンス・ブランチャードとイヴァンの共演です。アルバム『ハート・スピークス』(グラミー賞にノミネートされました)は、イヴァンとテレンス双方が、お互いに出会えた喜びをかみしめながらプレイしているような、なんとも実に心暖まる1枚でした。今回のイヴァンの公演にいらっしゃる方は、今月26日から行なわれるテレンスのステージもチェックされてはいかがでしょうか。
イヴァンは、なにしろ40年の活動歴を誇るシンガー・ソングライターです。レパートリーも何百曲とあることでしょう。僕はいつも、彼のライヴに接するたびに、いったいどんな曲が登場するかのと、わくわくすることをやめられません。初日のファースト・セットから、イヴァンは酔わせてくれました。2008年発表のアルバム『Saudades de Casa』からの曲を核に、「Daquilo Que Eu Sei」、「ジ・アイランド」(「Começar de Novo」)などの定番を交えたステージは実にハートウォーミング。客席からハミングや手拍子が広がっていきます。
バック・バンドでは名手テオ・リマが今回もドラムスの椅子に座り、小気味良いプレイを聴かせてくれました。ぼくは彼がアントニオ・アドルフォのバンドで吹き込んだ70年代の演奏も好きなのですが、一打一打の気持ちよさ、音色の粒立ちは生で体験するとさらに「すごさ」が実感として伝わります。このドラムスに乗って演奏したり歌ったりするミュージシャンは、至福の快感を味わっているのではないでしょうか。
美しく雄大なメロディ、見事にまとまったバンド・サウンド、オーディエンスを愛するステージ・マナー。イヴァン・リンスの音楽は、心に春を運んでくれます。
(原田 2009/3/16)
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