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KYLE EASTWOOD

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原田和典の公演初日レポート : KYLE EASTWOOD


4月下旬、カイル・イーストウッドはニュー・アルバム『メトロポリタン』と、みずから音楽を手がけた映画『グラン・トリノ』のプロモーションのために来日しました。ぼくはそこで、ブルーノート東京・フリーペパー「Jam」のための取材をさせていただきました。

なにしろ、あの俳優・映画監督、熱烈なジャズ・ファンとしても有名なクリント・イーストウッドのご子息です。僕もいち映画好きとして、クリント氏がダンディに大活躍する「ダーティ・ハリー」や「夕陽のガンマン」や「ミリオンダラー・ベイビー」や「恐怖のメロディ」(なんと、クリントがモンタレー・ジャズ祭に出かけ、ジョー・ザヴィヌル入りのキャノンボール・アダレイ・バンドや、ジョニー・オーティスのブルース・セッションを聴くというシーンもあります)などは見ています。その大スターの血を引くカイルに会うのは、やはり、相当な緊張が伴いました。

が、それは最初の数十秒だけ。少しもサラブレッドぶらない人柄、話の面白さ、豊かな表情、物腰の柔らかさが、場をなごませ、空気をリラックスさせてくれます。ぼくはすっかりカイルの気さくさに魅了されてしまいました。とくに自分の音楽について語るときの嬉しそうなことといったら、本当に彼は今、音楽の女神に魅入られているんだなあと思わずにはいられないものでした。

そのカイルが今、こよなく信頼する仲間たちと共に、心から愛する音楽を自信たっぷりに、ここ「ブルーノート東京」で展開しています。

2本のエレクトリック・ベース、1本のウッド・ベース(胴体の下4分の1がない、新種のモデルです)による、スラッピング、ハーモニクス奏法、弓弾きなどを織りまぜたプレイは、熱がこもりまくっています。5人編成での来日ですが、曲によっては管楽器の入らないキーボード・トリオになったり、ウッド・ベースとピアノのデュオを展開したり、鍵盤奏者抜きの4人でプレイしたり、組み合わせも多彩でした。ラスト近くでは、1930年代に作曲されたジャズの古典「Big Noise From Winnetka」をファンク・アレンジで聴かせてくれました。そう、ボブ・クロスビー(20世紀最大のポピュラー・シンガー、ビング・クロスビーの弟)のオーケストラが全米に流行らせ、ジーン・クルーパも取り上げ、ベンチャーズも「キャラバン」の中で引用し、映画「レイジング・ブル」にも使われたあの曲です。カイルは、この歴史あるナンバーを、まずはウッド・ベースで弾き、後半はエレクトリック・ベースに持ち替えて、しかもボブ・クロスビー・ヴァージョンと同じように口笛も交えながら楽しませてくれました。

ぼくはファースト・アルバムの頃からカイルのプレイを聴いていますが、接するごとにどんどんスケールが大きくなっています。ベース・プレイヤーとして、バンド・リーダーとして、エンターテイナーとして、カイル・イーストウッドはまだまだ新しい扉を開け続けてくれることでしょう。
(原田 2009/6/8)


(追記)
『メトロポリタン』のプロデューサーのひとりであるエリン・デイヴィスは、“ジャズの帝王”こと故マイルス・デイヴィスのご子息。カイルいわく“エリンとはジャズ・フェスティバルで出会ったんだ。彼は本当にいろんな音楽を知っていて、的確なアドバイスをしてくれる。真のミュージコロジスト(musicologist、音楽学者といえばいいでしょうか)だね”とのことでした。


6/8 mon - 12 fri
KYLE EASTWOOD

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〜・〜プロフィール・原田和典 〜・〜
1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。

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