2009.09.12
JUNKO ONISHI
artist 大西順子
公演初日リポート:大西順子トリオ
今日まで大西順子が「ブルーノート東京」に出演しています。3年連続です!
前半は「BACK IN THE DAYS」、「MUSICAL MOMENTS」など、ベスト・セラー中の最新作『楽興の時』からのオリジナル曲が続きます。CDで聴いたときにも自在な発想、怒涛の展開に引き込まれたのですが、ライヴではさらにそれが何倍にも膨らんで発展しているような印象を受けました。井上陽介のベースが低域を駆けずり回り、大西順子のピアノからガッツ、パッション、ファイアーが溢れ、そこにジーン・ジャクソンのドラムスが鋭く切り込む。とくに「MUSICAL MOMENTS」はあまりにもドラマティックに“進化”していて、音楽は生き物なのだなあ、と改めて痛感させられました。
ピアノ、ベース、ドラムスという、いわゆるピアノ・トリオの演奏は、巷ではBGMとしても活用されることが多いようです。しかし大西、井上、ジャクソンの演奏は決してそうなり得ません。すごい緊張感、尋常ではない密度を保ちながら、強靭にスイングするからです。ビリー・ストレイホーンの名曲「Lush Life」をイントロ代わりに挿入したスロー・テンポの「PORTRAIT IN BLUE」でも、それは替わりません。
プログラム後半では、今から30年前に亡くなったベース奏者/作曲家のチャールズ・ミンガスが書いた「SO LONG ERIC」も演奏されました。これも単なるミンガスのカヴァーというよりは、しっかり“大西順子の「SO LONG ERIC」”になっているところが、さすがです。生前のミンガスはとにかく“模倣”を嫌ったといいます。チャーリー・パーカーのフレーズを吹いてしまったジャッキー・マクリーンは“お前はパーカーじゃないんだ。マクリーン自身を演奏しろ”と殴られ、ケニー・バレルは“Be Yourself”とハッパをかけられました。が、この日の大西順子トリオの演奏を聴いたら、さすがのミンガスも巨体を揺らしてニンマリするに違いありません。
考えてみれば、この日のバンド・メンバーは全員“ミンガス”というキーワードで結びつきます。井上陽介は自身のアルバム『ドリフティング・インワード』でミンガスの「Pithecanthropus Erectus(直立猿人)」を取り上げていましたし、ジーン・ジャクソンはミンガス未亡人が携わるミンガス・ビッグ・バンドのメンバーでもあります。同じフレーズを執拗に繰り返しながらテンションを高めていく大西のプレイには、かつてミンガス・バンドで活動したホレス・パーランに通じる粘っこさがありました。
と思ったら、アンコールでは、そのパーランの代表曲「Us Three」が飛び出したではないですか。もちろんこれも、“大西順子の「Us Three」”になっていることは、いうまでもありません。パーランのヴァージョンではアル・ヘアウッドがブラシでドラムスを叩いていましたが、ジャクソンはスティックを使って大西のピアノを煽りに煽ります。
スケールの大きな、実に気持ちいいステージでした。きくところによると、この日のセカンド・セットでは演目の殆どを入れ替えて、エリック・ドルフィーの「SOMETHING SWEET, SOMETHING TENDER」や、ライチャス・ブラザーズがヒットさせた「YOU'VE LOST THAT LOVING FEELIN'(ふられた気持ち)」も演奏されたといいます。今日はいったい、どんなプレイが飛び出すか。大西順子トリオは文字通りの絶好調、痛快なスリルに溢れています。
(原田 2009/9/11)
● 大西順子トリオ
9/11 Fri - 9/12 Sat.
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1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
ブログ:http://haradakazunori.blog.ocn.ne.jp/blog/
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