2011.04.20
MANHATTAN JAZZ ORCHESTRA
artist MANHATTAN JAZZ ORCHESTRA
公演初日リポート:MANHATTAN JAZZ ORCHESTRA
マンハッタン・ジャズ・オーケストラは現代のビッグ・バンド界でひときわユニークな存在です。理由のひとつは、全曲がリーダーのデヴィッド・マシューズによるアレンジであること。今のデューク・エリントン楽団ではエリントン自身による譜面は使われていませんし、カウント・ベイシー楽団は御大健在の頃から複数のアレンジャーが譜面を提供しています。「TOCCATA AND FUGUE」のようなクラシック曲、「STRING OF PEARLS」のような古典的スイング曲、ファンキーな「IRONSIDE」などが続けて演奏されても、少しもとっちらかった感じを与えないのは、すべてがデヴィッド・マシューズという同一人物の編曲だからでしょう。
そしてもうひとつの特徴は、フレンチ・ホルン、チューバ、バス・クラリネットといった、あまりジャズのオーケストラに使われない楽器をフィーチャーしていることです。スター・プレイヤーと言うべき、存在感抜群のクリス・ハンターを始めとしたサックス/クラリネット/フルートの持ち替えをする3人のミュージシャンの横に、2人のホルン奏者、ひとりのチューバ奏者が並んで演奏するジャズ・バンドは他に類をみないと断言できます。
そしてさらにもうひとつの特徴は、ほとんどのパートにピアノが登場しないということです。マシューズはピアニストでもありますが、ソロを取る場面はきわめて少なく、マンハッタン・ジャズ・オーケストラではもっぱら指揮を担当しています。ピアノがあまり活躍しないことによって、よりベースとドラムスのプレイがくっきりと浮かびあがるのも、このオーケストラの個性といえましょう。ベースのブレント・ナッシーとドラムスの波多江 健はレギュラー・メンバーではなく、今回の公演のための特別参加なのですが、ふたりが生み出すドライヴ感あふれるリズムは、確実にソリストを鼓舞していました。
その他、ヴィンセント・チャンシーとジョン・クラークという、ジャズ・フレンチ・ホルン界の両巨頭のプレイにも、ぼくは大きな感銘を受けました。公演前、ぼくは「ヴィンセントはレスター・ボウイ・ブラス・ファンタジー、サン・ラ・アーケストラ、デイヴ・ダグラス・ブラス・エクスタシー等に在籍してきた奏者であり、失礼ながらマシューズの人脈とは交わらないのではないか」と思っていました。が、それは杞憂でした。あの美しく艶やかなヴィンセントの音色は、見事にマシューズの設定したフレームの中で光り輝いていました。
また、ラストの「SING,SING,SING」ではウォルター・ホワイトのトランペット・ソロが大きくフィーチャーされました。それまでの曲でひときわ鮮烈なハイノートを出していた彼が、今度はアドリブ・プレイヤーとしての魅力とダイナミズムを堪能させてくれたのです。まさしくアクセル全開の熱演、「まだ初日のファースト・セットだというのに、こんなに飛ばして大丈夫だろうか」と心配になってしまうほどのブロウを聴かせてくれました。故メイナード・ファーガソンのバンドで腕を磨き、クラシック、ジャズ、ポップスを縦横無尽にこなす才人、ウォルター(トランペット奏法の教則CDも出しています)。今回のステージによって、彼の知名度や評価はさらに上昇することでしょう。
このスーパー・ビッグバンドのメンバーについても地震の影響があったようで、公演開始直前に数名のメンバー入れ替わりがありました。しかし、替わっての参加がなんと、先日のタワー・オブ・パワー公演のメンバー、そして –Love for Japan-公演で音頭を取ったトランペットのカリスマ・エリック宮城、トロンボーンのマスター・中川英二郎、No Name Horses でもお馴染みトランペット・奥村晶、ドラムはポップス界からも引っぱりだこの活躍を見せる波多江健という豪華キャスト。日本との縁が深いデヴィット・マシューズがステージで語ることば、「ニホント、アメリカノミックスバンドデ、trying to uplift your heart」、公演実現のため強い想いを持って相当な努力を重ねてくれたのだろう、と感じました。
(原田 2011 4.19)
● 4.19tue.-4.23sat.
MANHATTAN JAZZ ORCHESTRA
coming soon