2012 10.27 sat. - 10.28 sun.
JUNKO ONISHI TRIO
artist 大西順子
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
1993年にアルバム『WOW』で衝撃のソロ・デビューを果たした大西順子が、20周年アニバーサリーを前に選んだ道は「引退」でした。そう決意するに至るきっかけは、前号のタブロイド版フリーペーパーにおける菊地成孔との対談で触れられている通りです。
ぼくが見た初日セカンド・セットは、異様な熱気に包まれていました。それはたぶん、ほかのセットでも同様なのではと思います。「これが最後の演奏だ」という大西順子側の何か吹っ切れたようなプレイ、そして「この瞬間を一音たりとも聴きのがすわけにはいかない。もう最後なんだから」と前のめりになって音を浴びるオーディエンス側の気迫がぶつかり、スパークしていたといえばいいでしょうか。
演奏曲目は、ファンにはおなじみのものばかり。初期のレパートリーである「EUROGIA」も、ジャッキー・バイアードの楽想を発展させた(といっていいでしょう)近作「THE THREE PENNY OPERA」も登場しました。後者は目下の最新作『バロック』にも収められていますが、大西順子はMCでこのCDを"私の最後のアルバム"と紹介していました。
共演メンバーは、大西いわく"大阪が生んだ天才ベーシスト"こと井上陽介、そしてドラムスはクインシー・デイヴィス(米国ミシガン州生まれ、カナダ在住)が担当しました。両者とも繊細なときは思いっきり繊細に、はじけるところでは思いっきりはじけることができるプレイヤーです。彼らの陰影に富んだリズムは、間違いなく大西に大きなインスピレーションを与えていたと思います。
この日のステージにはまた、ジャズの歴史を彩ったピアニストへのオマージュ的な要素も感じられました。アーマッド・ジャマルのアレンジを用いた「DARN THAT DREAM」は確かにジャマルの『ライヴ・アット・ブラックホーク』に入っていたヴァージョンに通じるものがありましたし、まさかのダブル・アンコールで演奏された「JUST ONE OF THOSE THINGS」は偉大なるアート・テイタムの吹き込み(56年)に則ったものでしょう。
いっぽう、ホレス・パーランの「USTHREE」では、パーラン版ではドラマーがブラッシュで演奏していたところを、大西版ではクインシー・デイヴィスがリム・ショット(スネアの端をスティックで叩いてアクセントをつける)を用いて、1960年のオリジナル・ヴァージョンとはまた違った興奮をかもし出していました。
大西順子がいかに多くのレコードやCDを聴いて学び、練習を積み重ね、現在の位置に到達したかが伝わってくるステージでした。ブルーノート東京への出演は本日が最後ですが、ラスト・ツアーはまだまだ続きます。ジャズ・ピアニスト=大西順子の総決算を、ぜひどうぞ。
(原田 2012 10.27)