2012 11.6 tue. - 11.8 thu., 11.10 sat.
McCOY TYNER TRIO with special guest GARY BARTZ
artist McCOY TYNER
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
20歳のときに、故郷フィラデルフィアからニューヨークに進出。22歳で黄金のジョン・コルトレーン・カルテットに抜擢され、以来、現在まで、ジャズ・ピアノ界のトップを走り続ける存在がマッコイ・タイナーです。
1970年代に入ると、少なくないアコースティック・ピアニストがエレクトリック・ピアノやシンセサイザーを手がけるようになりました。しかしマッコイはアコースティック・ピアノにこだわり続けました。「それはなぜですか?」と、ぼくは彼に尋ねたことがあります。マッコイはこう答えてくれました。「私はとにかくアコースティック・ピアノが好きなんだ。ほかの鍵盤楽器に触る時間があれば、その時間もアコースティック・ピアノにまわしたいね。だってこの楽器にはまだ、無限の可能性が秘められているのだから」。
今回の来日公演には、スタインウェイの特別なピアノが用意されました。木目をそのまま生かしたデザインが異彩を放ちます。サイズも、通常の黒いグランド・ピアノのより大きく見えます。椅子も特別製です。アコースティック・ピアノをこよなく愛するマッコイは、現在の境地を最高の楽器で伝えたかったのでしょう。ジェラルド・キャノン(ベース)、モンテス・コールマン(ドラムス)は、現在のマッコイ・トリオのレギュラー・メンバー。スペシャル・ゲストのゲイリー・バーツもすべてのナンバーに参加しました。彼は'60年代半ばにアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの一員として本格的デビューを果たし、'70年にはマイルス・デイヴィス・バンドでワイト島のロック・フェスティバルに出演しています(チック・コリアやキース・ジャレットと一緒に)。激動の時代を生きぬいたマッコイとバーツは、当時の息吹を今日に伝える貴重な存在でもあるのです。
どの曲でも各メンバーが大いに実力を発揮しましたが、ぼくは殆どの曲でマッコイの無伴奏ソロ・パートがフィーチャーされていたことに感銘を受けました。彼のアドリブになるとベースとドラムスが止み、やがて何コーラス後かにスッと入ってくるのです。その絶妙なタイミングは、まさしくレギュラー・ユニットならでは、といっていいでしょう。バーツはアルト・サックスとカーヴド・ソプラノ・サックス(アルトを小型にしたような形状)を演奏しましたが、個人的にはカーヴド・ソプラノの柔らかく暖かな音色が強く印象に残りました。
公演は8日まで行なわれ、一日休みをおいて10日に再開されます。モダン・ジャズ黄金時代にタイムスリップしたかのようなステージを、ぜひお楽しみください。
(原田 2012 11.6)