2012 12.10 mon. - 12.13 thu.
RON CARTER BIG BAND
artist RON CARTER
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
ロン・カーターは、半世紀以上にわたってジャズ界に君臨しているベーシストです。華麗なプレイによってベース=地味、というイメージを崩したひとりである、といっても過言ではないでしょう。リーダー・アルバムも、ベース奏者としては異例なほど多く出ています。いわゆるジャズ・コンボによる作品のほかにも、無伴奏ソロからバッハ集、弦楽四重奏との共演などなど、その幅広さは他の追随を許しません。
しかしロンにはまだ、チャレンジしていないことがありました。それはビッグ・バンドによるリーダー作を作ることです。2010年、彼はニューヨークの気鋭ミュージシャンを集め、最も信頼するアレンジャーのひとりであるボブ・フリードマンに編曲を依頼して『ロン・カーター・グレイト・ビッグ・バンド』を完成させました。かつてギル・エヴァンス『クールからの脱出』、マイケル・マントラー『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』、ベニー・カーター『セントラル・シティ・スケッチズ』等のオーケストラ作品に参加してきたロンですが、自身でビッグ・バンドを率いる喜びは格別のようです。
今回の来日公演でも、プレイにMCに、彼の張り切りようが大いにうかがえました。クールでスタイリッシュなイメージのある彼が笑顔でジョークを飛ばし、ステージを去るときには大きく手を振って観客の声援に応えるのです。
オープニングはファンにはおなじみ、「LOOSE CHANGE」。タイトルは"小銭"という意味ですね。自身のコンボでは何度も演奏しているナンバーですが、聴き慣れたメロディがビッグ・バンドで表現されると、一段と新鮮味が生まれます。ソプラノ・サックスがリードするサックス・セクションの響きが、ちょっと往年のサド・ジョーンズ=メル・ルイス・ジャズ・オーケストラみたいだな、と思ったら、ソプラノを吹いているのはサド=メルの重鎮メンバーだったジェリー・ダジオンではないですか。テナー・サックスのスコット・ロビンソンもサド=メル人脈だし、やはりテナーのウェイン・エスコフェリーはミンガス・ビッグ・バンドでも演奏経験があります。
トランペットのグレッグ・ギズバートも現在のジャズ・ビッグ・バンド界に欠かせない存在、しかもトロンボーン・セクションにはヴァンガード・ジャズ・オーケストラの中心人物であるダグラス・パーヴァイアンスの姿も見られるのですから、これはもう、フルバン好きなら一瞬のまばたきも惜しくなるほどのラインナップといえましょう。
現在のロンはビッグ・バンドのほか、ピアノ+ギター+ベースというトリオ編成にも意欲を注いでいます。今回のライヴではトリオによる「MY FUNNY VALENTINE」もフィーチャーされました。ギター はラッセル・マローン、ピアノは新星ドナルド・ヴェガです。ニカラグアに生まれ、14歳でアメリカに移住。ケニー・バロンにジャズ・ピアノを師事し、2008年にソロ・デビューを果たしました。自身のアルバムではラテン・ジャズ寄りのプレイを聴かせてくれましたが、ロンとの共演ではクラシックのバックグラウンドを感じさせるフレーズ作りが印象に残ります。
ロン・カーター・ビッグ・バンドのブルーノート東京公演は13日まで続き、14日と15日は「コットンクラブ」でトリオによるライヴが行なわれます。巨匠ベーシストの円熟の極致を、ぜひどうぞ。
(原田 2012 12.10 :公演初日リポート)