2012 12.17 mon. - 12.20 thu.
MARIA SCHNEIDER ORCHESTRA
artist MARIA SCHNEIDER ORCHESTRA
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
このメンバーなしに現代のジャズ・アンサンブル界は語れません。マリア・シュナイダー・オーケストラが遂に初来日を果たしました!
進行形のニューヨーク・ジャズの感動と興奮を届けるこのアンサンブルがライヴで聴けることを、どれほど多くのファンが待ち望んでいたことでしょう。場内はもちろん超満員。著名な日本人ミュージシャンの姿も何人か見受けられました。それに加えてぼくが嬉しかったのは、幅広い年齢層のオーディエンスで客席が埋め尽くされていたことです。マリアのサウンドの持つ風通しの良さが、"良い音楽"を求めるあらゆる世代にアピールしたのだと思います。
今回の公演に際し、マリアは全セット異なるレパートリーを用意しているともききました。彼女の曲は、聴いている分には実に詩的で美しく、時の経過を忘れさせてくれます。しかし演奏する側にとっては、それなりに緊張の連続ではありましょう。サックス奏者はクラリネット、フルート、ピッコロ等を持ち替え、トランペッターは各種ミュートをつけたり外したり、フリューゲルホーンも吹きます。マリアの指示よりも、そのタイミングが少しでもずれたら、あの微妙な音の綴れおりは成立しないに違いありません。かつてのジャズによくあった、テーマ→アドリブ→テーマというパターンを必ずしも踏襲しているわけでもありません。1曲1曲がそれぞれ異なるシンフォニーである、と呼びたくなるほどマリアの作編曲は練り上げられています。それを各セット、すべて違う演目でプレイするのは演奏家にとっても並大抵のチャレンジではないはずです。通常の演奏家なら譜面を追うだけでも精一杯かもしれませんが、オーケストラのメンバーはいともやすやすと、実に楽しそうな表情を浮かべながら、一丸となって美しい響きを創り出していくのです。
ぼくが見た初日セカンド・セットはファースト・アルバム『エヴァネッセンス』、グラミー賞に輝いた『コンサート・イン・ザ・ガーデン』、2度目のグラミーを獲った『スカイ・ブルー』からの曲を中心に構成されていました。ソリストのアドリブ部分に使われていたコードはごくシンプルなものに聴こえましたが、その背後で鳴るアンサンブル、変幻自在のリズムはどこまでもニュアンスに富んでいます。ラーゲ・ルンドのギターをハーモニーの隠し味に使い、響きに一層のふくらみを与えているあたりも心憎く、ゲイリー・ヴァセイスのアコーディオンも大いに存在感をアピールしていました。彼はピアニストやオルガン奏者としても大活躍している気鋭ですが、その才能はアコーディオンでも鮮やかに発揮されていました。
ライヴのクライマックスを飾ったのは、グラミー・ウィナーの名曲「CERULEAN SKIES」。マリアがタイトルをMCで告げるだけで、場内から大歓声が巻き起こります。彼女自身も余りの反応にびっくりしたようで、満面の笑顔で「アイ・ラヴ・ユー、本当に日本に来て良かったわ」と言っていました。マリアの大好きな鳥をテーマにした20分超の大作で、ソリストはダニー・マキャズリン(テナー・サックス)、ヴァセイス(アコーディオン)、チャールズ・ピロウ(アルト・サックス)。マリアやイングリッド・ジェンセンはバード・コール(鳥の鳴き声のような音を出す笛)も吹きます。消え入るような弱音から、いまにも張り裂けそうなクレッシェンドまで。「なんと緩急に富んだサウンドなのだろう」と、ぼくは呆然とするばかりでしたが、いついかなる音が、どんな大きさで鳴らされようと、そこに優しさや暖かみが感じられるのもまた、マリア・シュナイダー・オーケストラの魅力です。
練り上げられたスコア(譜面)と、自由の歓びを歌いあげるかのようなアドリブ。このふたつを、とんでもなく高い次元で両立させたマリア・シュナイダー・オーケストラの未来は限りなく明るいといえましょう。公演は20日まで。全身全霊でお勧めいたします!!!
(原田 2012 12.17 :公演初日リポート)