2013 3.4 mon. - 3.5 tue.
ROBERTA GAMBARINI
artist ROBERTA GAMBARINI
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
そのステージ・マナーに接するごと、聴くごとに、さらに魅力的になってくるシンガーがロバータ・ガンバリーニです。歌うことへの喜び、楽曲への愛情、ジャズへの熱意、オーディエンスへの親愛を、こんなに強く感じさせてくれる存在は決して多くはないでしょう。
彼女は前日までジャカルタの「ジャワ・ジャズ・フェスティバル」で歌っていました。その後、すぐ飛行機に乗って日本に到着しました。しかし歌声には疲れなどあらわれるわけもなく、ますます絶好調といった雰囲気です。歌えば歌うほど、さらに調子が出てくるタイプなのかもしれません。2ステージを全力で歌ったあとには、サイン会も開催するサービスぶり。名前がガンバリーニだからというわけではないですが、「ものすごい頑張り屋さんだなあ」と思いました。でもその頑張りが重苦しく感じられないのもまた、ロバータのいいところです。
伴奏メンバーはジャスティン・ロビンソン(アルト・サックス、フルート)、サリヴァン・フォートナー(ピアノ)、アミーン・サリーム(ベース)、クインシー・フィリップス(ドラムス)。カンの鋭い方ならおわかりでしょう、ロイ・ハーグローヴ・クインテットからロイが抜けた4人です。ロイは別のユニット"RHファクター"でアジア・ツアー中。他のメンバーはこうして、ロバータと合流したわけです。「Easy To Love」、「Day In Day Out」など、かつて幾多の名シンガーに歌われながら、最近はあまりナマで聴くことのできない曲が次々と目の前で蘇ります。1コーラス目はストレートに、2コーラス目はメロディをフェイク気味に、そしてその後はスキャット、という展開も最近では殆ど聴きません。ロバータは、こうした伝統的な形式をとても大切にしながらパフォーマンスを展開します。「王道ジャズ・ヴォーカルの継承者」と呼ばれるのも、このあたりに理由があるのでしょう。
「ディジー・ガレスピーが1950年代に吹き込んだアレンジを参照にしました」というMCの後で始まったのは、「On The Sunny Side Of The Street」。たしかにディジーがソニー・ロリ ンズ、ソニー・スティットと録音した『Sonny Side Up』のヴァージョンを下敷きにしています。ロバータは途中、そこに入っているディジーのトランペット・ソロをそのまま高音でコピーし、彼女のジャズ・レコードに対するマニアぶりをうかがわせてくれました。ぼくにとってもうひとつの目玉になったのが、ベニー・カーター作の「When Lights Are Low」です。この曲、マイル ス・デイヴィスがサビ(ブリッジ)部分を変えて演奏して以来、エリック・ドルフィーもチェット・ベイカーも、その形式に沿ってカヴァーしてきました。しかしロバータはカーターの初演を聴きこんだのでしょう、しっかり原曲通りのサビで歌います。「歴史や伝統を知ること、原典にあたること」の重要性を、彼女は知り尽くしているのだと思います。
前回のライヴ評(https://www.bluenote.co.jp/jp/movie/2010/02/_report_roberta_gambarini_1.html)も、ぜひご覧いただければ幸いです。6月には富士通コンコード・ジャズ・フェスティバルの一環として当店に再登場するロバータ、今の彼女から目が離せません!
(原田 2013 3.4)