2013 3.22 fri. - 3.24 sun.
HIROMI UEHARA SOLO
artist 上原ひろみ
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
感動的なライヴでした。
クラブに溢れる人、人、人。立錐の余地もないとは、まさにこのことでしょう。オーディエンスをかきわけるように上原ひろみが登場すると、場内には冗談ではなく天井が吹っ飛ぶのではないかと思えるほどの声援が巻き起こります。
しかし、彼女がピアノの椅子に座り、最初の音を弾こうと鍵盤に指を下ろした瞬間から、空気は静けさに包まれます。「かたずをのんで」、「聞き耳をたてて」、表現の仕方はいろいろあるでしょうが、とにかく、三百人は超えていたであろうオーディエンス全員の耳目が上原ひろみに注がれるのです。かといって聴き手は決して地蔵のように黙っているわけではありません。体を揺らす方もいれば、ドリンクを口に運びながら笑顔で音に浸っている方もいる。そして彼女が、ここぞというところで印象的なフレーズを出すと、大きな拍手がワッと響き渡ります。どれだけ多くのファンが上原ひろみの音楽に親しみ、CDを愛聴して曲を覚えこんできたか、とてもよくわかる情景でした。
アンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスとのトリオ、およびヒロミズ・ソニックブルームでの演奏でも鮮烈な印象を残す上原ひろみですが、今回は久しぶりのソロ・ピアノ公演。当然ながら注目はすべて彼女のプレイに注がれます。その意志しだいで演奏は長くもなり短くもなり、いかようにも発展します。エレクトリック系のバンドでプレイするときには控えめだったエロール・ガーナーやオスカー・ピーターソンへの敬愛が、よりストレートに感じられるのもソロ・ピアノの醍醐味です。ストライド奏法、ブロック・コード、内部奏法(ピアノの弦をはじく)、ほとんどのピアニストが使わないであろう超低音を駆使したパフォーマンス等、「ピアノを鳴らしきる」ことを徹底的に追求するアプローチは、圧巻のひとことにつきます。
オリジナル曲中心の構成で聴かせてくれましたが、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」からの「My Favorite Things」は途中「あんたがたどこさ」風に変化 し、ジョージ・ガーシュイン作「Rhapsody In Blue」はブルースやラテンの要素を含みながら20分を超える大作へと"再作曲"されました。奇しくもこの曲、ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンドも先日の「ブルーノート東京」で演奏したばかり。奏者の個性によって、曲がどんどん生まれ変わっていく。これこそジャズの大きな楽しみです。
公演は24日まで続きます。世界最大の歴史と権威を誇るアメリカのジャズ雑誌「ダウンビート」で、日本人として秋吉敏子以来二人目となる表紙を飾った上原ひろみ。今なお天井しらずに進化し続ける才能と音楽性を、ぜひライヴでどうぞ!
(原田 2013 3.22)