2013 6.28 fri. - 6.29 sat.
BOB DOROUGH
artist
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
本物の歌好き、音楽好きにぜひ見てほしいステージです。ジャズ界のみならず、フォークやロックのフィールドにも数多くの支持者を持つシンガー・ソングライター/プロデューサー、"グリニッチ・ヴィレッジの吟遊詩人"ことボブ・ドローが初来日を果たしています!
彼は1980年末に来日する予定でした。日本のシンガー、金子晴美のファースト・アルバムをプロデュースした縁で、彼女のコンサートにゲスト出演するはずだったのです。しかしこれはキャンセルされてしまいました。それから30数年が経った今、ボブを日本のジャズ・クラブで聴けるようになろうとは! ぼくですら大感激しているのですから、'50年代や'60年代からボブの動向を追っていたファンにとっては涙ものの快挙に違いありません。
また、この日の客席には、若い層のファンも目立ちました。これは本当に嬉しいことです。ボブの自由な楽想が、世代を超えてアピールしているわけですね。
軽快な足取りでステージにあがったボブがピアノの鍵盤に指をおろすだけで、ぼくはブリーカー・ストリートあたりのコーヒーハウスに紛れ込んだような錯覚を覚えました。「Polka Dots And Moonbeams」などのスタン ダード曲にも、適度にボブ流のひねり(ハーモニーや歌詞など)が加えられ、彼以外の誰にも表現しようのない世界へと変化します。ミュージシャン間でよくいわれるところの"Hip"、日本語にすると「粋でかっこいい」という意味が近いのではないかと思いますが、まさしくそのHipを、ボブは歌とピアノ、そして身振り手振りで表現しているのです。
もちろん「Devil May Care」、「Better Than Anything」などの定番オリジナル曲も聴かせてくれました。"「Devil May Care」はマイルス・デイヴィスと一緒に吹き込んだんだよ。彼の もとにはマネーが入ったらしいけど、私は全く儲からなかったね"という前置きも絶品です。後半では、彼が音楽を担当したアメリカの国民的子供番組「スクールハウス・ロック」からのナンバーも歌ってくれましたし、ラストでは"私のライヴに来ると、マイルスがいつもリクエストした曲"というMCの後に「Baltimore Oriole」を聴かせてくれました。
なんという艶のある歌声、力強いピアノ・タッチ。現在、ボブは89歳ですが、「年齢の割には~」というエクスキューズが必要ないのです。米国のジャズ新聞(そういうのがあるのです)で、彼は「若さの秘訣はなんですか?」という質問を受けました。彼はこう答えています。「できるだけストレスの少ない毎日を送ること。そして、人生を楽しむことだよ」。
人生の楽しみを知り尽くした、粋な男の境地。それがこの日のステージから、強く強く伝わりました。ぼくはこのライヴで、さらにボブが好きになりました。
開演前、店内ではボブのドキュメンタリー・ビデオ(錚々たるミュージシャンが登場します)が流れています。これを見るとボブの音楽がいかにニューヨーク(グリニッチ・ヴィレッジ)に根付いたものかが一目瞭然です。皆様には少し早めにいらしていただき、ぜひこのビデオも見てもらえたら、と思います。
(原田 2013 6.28)