2013 7.1 mon. - 7.3 wed.
PAT MARTINO TRIO
artist PAT MARTINO
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
"マシンガン"と呼ばれる超絶ギタリスト、パット・マルティーノが本当に久しぶりに登場しています。ぼくが前に彼を「ブルーノート東京」で見たのはまだ改装前、骨董通り沿いにお店があった頃ですから、もう十数年も前のことです。そのときも強靭なピッキング、空間を埋め尽くすようなフレーズ、エッジの立った音色に圧倒された記憶がありますが、現在のプレイも、まったくテンションが落ちていません。毎日、どれだけハード・トレーニングを続けているのでしょう。ギターを弾いている方なら必ず彼の豊富なアイディアや指使いに感銘を受けることは間違いないでしょうし、楽器演奏の経験のない方でも、彼のプレイに直に接すれば「ギターってこんなに奥深い楽器なのか」と唸ってしまうはずです。
今回のライヴは、近年のマルティーノが力を入れているオルガン、ドラムスとのトリオ編成で行なわれました。10代の頃から、マルティーノはジャック・マクダフ、ドン・パターソン、トゥルーディ・ピッツ、リチャード・グルーヴ・ホームズなど伝説的オルガニストと共演してきました。オルガンと一緒にプレイすることで音楽性を育み、成長してきたといっても過言ではありません。
この来日に同行したオルガン奏者、パット・ビアンキはニューヨーク州ロチェスター出身。7歳からオルガンを習い、11歳の時にはライヴを始めていたそうです。ジャズ・オルガン奏者を志したきっかけは、ジョーイ・デフランセスコのCDを聴いたこと。多くのオルガン奏者は左手でベース・ラインを弾きますが、ビアンキは左手だけではなく両足も使ってベース・パートを担当します。ドラマーのカーメン・イントーレはニューヨーク州バッファローに生まれ、5歳からドラム演奏を開始。デフランセスコやドクター・ロニー・スミス等からも共演を乞われている逸材です。ビアンキもイントーレも、マルティーノから見たら息子のような年代です。しかし演奏の息はぴったり。たった3つの楽器で、よくこんなに多彩な世界がつくりだせるものだと、ぼくは改めて感心しました。
アルバム『インターチェンジ』に入っていた「Catch」から、5曲目のマイルス・デイヴィス=ビル・エヴァンス作「Blue In Green」までMCはゼロ。高テンション、まさしく入魂のパフォーマンスが続きます。マルティーノの右腕の関節は、「いったいどうなっているんだろう?」と不思議になってくるほど柔らかく、一切無駄な動きがありません。長い指が、弦の上で踊るように動きます。御大のソロが終わると、「このテンションを落としてなるものか」という勢いでビアンキのオルガン・プレイが炸裂します。客席から自然に大きな拍手や歓声が沸き起こり、何人ものファンが前のめりになって上半身をゆすりながら音楽に没頭しています。
ラストは客席からのリクエストに答えて「Sunny」。1972年のアルバム『ライヴ!』の看板ナンバーですね。もちろんマルティーノは過去と同じようなことはしません。アレンジもフレーズも変えながら、今の感性で往年の名曲を再構築していきます。
泉のように湧き出るフレーズ、シャープなリズム感、そしてワン&オンリーの音色。マルティーノがなぜ、ジョー・サトリアーニ、タック・アンドレス、ジョン・スコフィールド、マイク・スターン等の後進からリスペクトされているのか。その答えを今、ライヴで知ることができます。
(原田 2013 7.1)