2013 7.9 tue. - 7.10 wed.
Sadao Watanabe / Outra Vez
artist SADAO WATANABE
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
ビ・バップ、アフリカ、ブラジル。これが渡辺貞夫の音楽の三本柱ではないかと、ぼくは考えています。
昨年12月には盟友リチャード・ボナとアフリカン・テイスト満載のクラブ・ギグを開催。3月下旬にはニューヨークの気鋭たちを引き連れて、ビ・バップに基づいたアコースティック・ジャズをたっぷり聴かせてくれました。そして今回は、ブラジルきっての逸材たちとボサノバ~サンバ愛にあふれるステージを繰り広げています。地球規模で活動を続ける渡辺貞夫のあらゆる面が、ここ数ヶ月の「ブルーノート東京」公演には反映されているのです。
彼がブラジル音楽に強く感銘を受けたのは1960年代半ば、アメリカ滞在中のようです。そして帰国後、多くのブラジリアン・ナンバーをレパートリーに取り入れるいっぽう、「キューピッヅ・ソング」、「ストリート・サンバ」、「白い波」等の和製ボサも書き下ろして、日本に本格的なボサ・ノヴァ・ブームを巻き起こしました。'68年にはサンパウロに赴き、アパレシド・ビアンキを中心とする"ブラジリアン・エイト"と『ブラジルの渡辺貞夫』を録音。来日したバーデン・パウエルやローリンド・アルメイダとも共演しています。'79年には野外フェスティバル「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」でエルメット・パスコアールやエリス・レジーナとセッションを行ないました。その後もトッキーニョを日本に招聘したり、栃木県の国民文化祭で子供たちとブラジルの打楽器隊と合同演奏をプロデュースしたりと、渡辺貞夫とブラジルの縁は途切れることがありません。そして昨年末、約25年ぶりにブラジル・レコーディングを敢行。今回の公演は、そのアルバム『オウトラ・ヴェス~ふたたび~』の発売記念も兼ねています。
メンバーのうち、ピアノのファビオ・トヘスは2008年に行なわれたクリスマス・コンサートにも参加していました。"トリオ・コヘンチ"というグループでも人気を集める才人です。ドラムスのセルソ・ヂ・アルメイダも2010年のツアー「BMW Tokyo presents SADAO WATANABE "Brazilian Nights"」で演奏していましたね。ひとりでパーカッション・アンサンブルを演じるかのような技は今回も健在で、渡辺貞夫はソロを吹き終えると何度も彼の後ろに立っては、うれしそうにプレイに見入っていました。右手でスティックを持ってクローズド・ハイハットを正確無比な16分音符で刻み続け、左手で打楽器を自在に叩くときのセルソは、まさしく"超絶"のひとことにつきます。エレアコ・ギターのスワミ・ジュニオールはマリア・ベターニアやオマーラ・ポルトゥンドとの共演でも知られる名手。アドリブ・ソロのときは、まるでエレクトリック・ベースを弾くように人差し指・中指を弦に引っかけながら演奏します。
最新作のタイトル・ナンバー「Outra Vez」(アントニオ・カルロス・ジョビンの自作とは同名異曲)から始まったステージは、蒸し暑い東京の夏をさわやかに替えてくれました。エリス・レジーナに捧げた'88年のアルバム『エリス』から「Elis」、「Passo de Doria」がナマで聴けたことに狂喜したオーディエンスも多かったことでしょう。優しく暖かなサックスの音色、躍動するアンサンブル、そして全メンバーと観客に広がる笑顔。渡辺貞夫のライヴはいつも華やかで楽しいですが、今回の爽快感は格別です。
(原田 2013 7.9)