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TERENCE BLANCHARD

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


テレンス・ブランチャードという名前を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

年季の入ったファンは、1980年代初頭に、彼が颯爽とデビューした当時のことを思い出すことでしょう。故郷ニューオリンズが生んだ先輩、ウィントン・マルサリスに追随するかのように、ただひたすらテクニックを駆使した複雑な4ビート・ジャズをプレイしていた時期です。

次の世代のファンが思い浮かべるのは、おそらく"スパイク・リー監督の数多くの映画に携わっている、卓越した作曲家"としての姿でしょう。スパイクとの出会いは、テレンスの音楽性を確実に面白くしたと、ぼくは考えています。R&B、ヒップホップ、ブラジル音楽などの影響が、ごく自然に彼のサウンドに入り込むようになってきました。

そして近年のファンは、テレンスに"数多くの鬼才を輩出している名バンド・リーダー"という称号を加えたくなることでしょう。今をときめくデリック・ホッジ、リオーネル・ルエケ、ウォルター・スミス3世、アーロン・パークスなどなど、みんなテレンスの許から巣立ちました。現在のピアニストであるファビアン・アルマザーン(キューバ出身)、ドラマーであるケンドリック・スコットはそれぞれ約5年、約10年、彼のバンドに所属しています。テレンスは間違いなく、現在進行形のジャズに必要不可欠なカリスマのひとりです。トランペットの音色はますます輝かしく逞しく、アドリブ・フレーズは留まるところを知りません。テレンスのライヴをデビュー当時から聴いているぼくが改めて驚いたのですから、初めて彼のライヴに接するファンは余りの迫力に卒倒するのではないでしょうか。曲作りやアレンジにはさらにかっこよさが増し、バンド・メンバーへの統率は「カリスマ」のひとことに尽きます。

この日はまず、彼のレギュラー・クインテットによる演奏から始まりました。予想通り最新作『マグネティック』からのナンバーが中心ですが、CDの何倍もの時間をかけて、まるで組曲さながらの起伏に富んだパフォーマンスが続きます。ケンドリックが口径の違う2つのバスドラを使い(いわゆるツーバス)、リズムに陰影を加えていたのにも驚かされました。昔のジャズのビッグ・バンドや、へヴィ・メタルのバンドがよくやる"ドタドタドタドタ"というツーバスとはまったく異なる、限りなくメロディアスなプレイに思いっきり鳥肌が立ちました。今のジャズ界はちょっとした"ドラム戦国時代"です。ジェマイア・ウィリアムス、ジャスティン・フォークナー、ジャスティン・ブラウン、ロナルド・ブルーナーJr.、ユリシーズ・オーエンスJr.、オーティス・ブラウン3世、タイシャン・ソーリー、すっかり有名なマーカス・ギルモア、(少し上の世代ですが)カリーム・リギンズなどなど、これほど多くの才人ドラマーがジャズ界に押し寄せたのは1950~60年代以来かもしれません。彼らの打ち出すようなリズムは、決して過去のジャズ・レコードでは聴くことができません。まさしく今のスイング、現在のグルーヴ、進行形のビートが、この瞬間を生きているドラマーたちの両手両足によって刻まれていくのです。

アンブローズ・アキンムシーレ、フレディ・ヘンドリックス、マイケル・ロドリゲス、アヴィシャイ・コーエン(ベーシストとは別人)など、今のジャズ界は注目のトランペッターで溢れています。しかし貫禄・風格という点を加味すると、やはりテレンスは別格という印象を受けます。30年のキャリアを持つベテランでありながら、あんなにギラギラし、ファイトをたたえながら、まるで新進気鋭のようにトランペットを吹きまくる・・・このライヴに接して、ぼくはさらに彼のファンになりました。公演は本日も行なわれます。現在進行形のジャズが持つ息吹を、ぜひ体感してください!
(原田 2013 8.18)

SET LIST

2013 8.16 FRI.
1st
1. TIME TO SPARE
2. JACOB'S LADDER
3. DON'T RUN
4. PET STEP SITTER'S THEME SONG
5. BOUNCE
6. YOU'LL NEVER KNOW HOW MUCH I LOVE YOU
 
2nd
1. NO BORDERS JUST HORIZONS
2. HALLUCINATIONS
3. DON'T RUN
4. PET STEP SITTER'S THEME SONG
5. BOUNCE
6. DONNA LEE

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