原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

先日までファブリッツィオ・ボッソがゴスペルや讃美歌を演奏するステージを繰り広げていましたが、今はカーク・ウェイラムが大好評のプロジェクト"ゴスペル・アコーディング・トゥ・ジャズ"を展開中です。カークのルーツというべきゴスペルにスポットを当てた同プロジェクトは1998年に始まり、これまで3作品を発表。2011年には「It's What I Do」という楽曲で、悲願だったグラミー賞（ベスト・ゴスペル・ソング部門）も獲得しました。

場内の明かりが落とされると、「Just A Closer Walk With Thee」を吹きながらカークが登場します。1885年に出版された讃美歌で、ジャズではクラリネット奏者のジョージ・ルイス（今度来日するプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドとも縁の深い人物）やギタリストのグラント・グリーンも演奏していましたね。カークはテンポを落としながら、まるでメロディを唸るかのようにソプラノ・サックスを吹きます。場内の視線を一身に集めたまま、テナー・サックスに持ち替えて、次の曲「Fish & Spaghetti」へ。'80年代にボブ・ジェームズ等と演奏していた頃と変わることのない、カークならではのフュージョン～スムース・ジャズの世界が広がります。そのプレイの親しみやすさ、メロディ・ラインの明るさは、テナー版デイヴ・コーズといったところでしょうか。

制作が終わったばかりという新作（ゴスペル・アコーディング・トゥ・ジャズの第4弾となるもよう）からは、ネルソン・マンデラに捧げた「Madiba」がプレイされました。この曲のあと、本日のフィーチャリング・シンガーのひとりであるケヴィン・ウェイラムが登場します。カークの9歳下の実弟とのことですが、体つきはかなり違います。大きなからだをフルに生かした歌声は、まるで管楽器のように雄大に響きます。もうひとりのシンガー、シェレーエ（カークのMCでは"シャレーア"ときこえました）も「Make Me A Believer」等のトラックで大活躍。カークもサックスとバックグラウンド・ヴォーカルの両面で気を吐いていました。

ところでカークといえば、どうしても忘れられないのがホイットニー・ヒューストンの存在です。カークは彼女のバック・バンドに所属し、レコーディングやツアーで大きくスポットを浴びました。この日、演奏されたのは、誰もが知っている「I Will Always Love You」。あえてシンガーを入れず、インストゥルメンタル・ナンバーとしてプレイします。この曲の間、カーク、バンド・メンバー、そしてオーディエンス全員が皆、ホイットニーの想い出に浸ったのではないかと思います。

公演は18日まで続きます。18日のファースト・ショウでは、「ゴスペル・ブランチ」としてソウル・フード（黒人間で特に愛されている料理）のメニューも用意されるとのこと。"LOVE"と"JOY"を届けるステージを、どうかお見逃しなく！
(原田 2014 5.16）