2014 8.28 thu. - 8.29 fri.
HOTEI -Premium Live- @ Blue Note Tokyo
artist HOTEI
アウェイで鍛え上げたからこそ
ワールド仕様の凄みのあるギター。
最初の1音から、客席はただならぬものを感じていた。
ドラムスのデヴィッド・スロックモートン、ベースのトニー・グレイとのトリオでステージに上がった布袋寅泰は新曲「New Chemical」を演奏する。10月1日にリリースされるアルバム『New Beginnings』のナンバーだ。鋭いタッチ、印象的なリフ......。誰もが待っていた布袋寅泰のサウンドのはずだ。しかし、何かが違う。オーディエンスは敏感に察知し、その緊張が会場の空気の濃度を上げた。以前と違うもの――。それは"凄み"である。闘う者の目、闘う者の佇まいなのだ。そして、それは明らかに音に表れていた。
2年前のまさしくこの時期、夏の盛りに、布袋は活動の拠点をロンドンへ移した。自宅を手放し、愛車を手放し、日本で築いた"布袋ブランド"を手放し、ロックの国へ移り住んだ。50歳、デビュー30年。キャリアを重ね、スキルを磨き、並の刺激では心は燃えなくなっていた。だからこそ、さらに高いステージを目指して、後戻りできない状況に自分を追い込んだ。
「ホームグラウンドで闘っているだけでは、絶対に力はつかない。アウェイでこそ、自分の本当の力量、精神力、そして市場価値を思い知るんです」
ロンドン移住直後、自宅にインタビューで訪れた時に、語ってくれた。それは質問への回答というよりも、自分に言い聞かせているようだった。
2014年は、3月にザ・ローリング・ストーンズの東京ドーム公演にゲスト参加。5万人のストーンズファンの前で「Respectable」を共演した。7月には名門ジャズフェス、スイスのモントルージャズフェスティバルで、世界中から集まったジャズファンの前でロックを演奏した。思い切りアウェイのステージで、演奏を、マインドを、みっちり鍛え上げてきた。
2日間4ステージのブルーノート東京公演はワールド仕様の布袋寅泰を披露する場であったのかもしれない。布袋は技術や経験で武装せずに、裸の自分に戻る道を選んだ。だからこそトリオという最小限の、逃げ道のない編成を選んだのだろう。キーボードなし。ホーンなし。打ち込みなし。1人のギタリストとしての自分をさらけ出した。ただし、国籍を越えて手を結んだ新しい仲間はかなり頼りになる。デヴィッドのスネアやキックはズドン! と重く、一方トニーのベースは太く、それでいてデリケートに歌う。
「Slow Motion」も圧巻だった。1991年の『GUITARHYTHMⅡ』でロキシー・ミュージックのサックス、アンディ・マッケイと初共演したナンバーだ。ジャケットを脱いで白いドレスシャツ1枚になった布袋。音数だけでなく、体も明らかにシェイプアップされている。この曲のテーマは幽体離脱。わずか3つの楽器で、ものすごく立体的な世界を描いていく。布袋のストラトキャスターとトニーのエモーショナルなベースは実に相性がいい。ある時は気持ちよく溶け合い、ある時は対峙し、客席を別のどこかへ連れて行く。
本編のラストナンバーはあらためて書くまでもないだろう。クエンティン・タランティーノ監督作品『キル・ビル』のメインテーマ「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」である。導入部のリフが鳴るとともに、客席は歓喜で揺れる。この代表曲ですら凄みを増していた。ドラムスとベースのみというシンプルな編成をバックに荒々しい演奏を聴かせた。
つまり、リリース間近のニューアルバム、『New Beginnings』は今の布袋寅泰を象徴しているタイトルだ。今回のショーでそれを思い知った。
いまさら言うまでもないことだが、ロックとは音楽の一つのジャンルというだけではない。ロックは、リスクを恐れない生き方でもある。布袋寅泰のブルーノート東京公演は、まさしくロックを音で示したショーだった。
text : 神舘和典(こうだて・かずのり)
1962年東京出身。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)『上原ひろみ サマーレインの彼方』(幻冬舎文庫)など著書多数。2013年には布袋寅泰著『幸せの女神は勇者に味方する』(幻冬舎)の構成も手掛けた。
2014 8.28 THU.
1st & 2nd | |
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1. | NEW CHEMICAL |
2. | UNTITLED |
3. | SLOW MOTION |
4. | MOONLIGHT PIERROT |
5. | UNTITLED |
6. | STRANGERS 6 |
7. | HYMNE À L'AMOUR |
8. | MIRROR BALL |
9. | BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY |
EC. | BAD FEELING |