原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

昨年、結成10年を祝った"夢のビッグ・バンド"、小曽根 真 featuring No Name Horses。東京JAZZにおけるクリスチャン・マクブライド・ビッグ・バンドとの競演、新作『ＲＯＡＤ』を携えての全国ホール・ツアーなど話題に事欠かない彼らが、ついにクラブに戻ってきてくれました。『ＲＯＡＤ』は大作組曲「ビッグ・バンド交響詩"ROAD"」とジョージ・ガーシュウィン作「Rhapsody In Blue」のカップリングでしたが、今回の「ブルーノート」公演は、これまでのアルバムからのナンバーをたっぷり織り交ぜたプログラムです。久しぶりにプレイされる定番の数々に、場内は大いに沸きました。

小曽根がバークリー音大で学んでいた頃に書いた「Smokin' Burnin'」から、大迫力のサウンドが炸裂します。No Name Horsesのファースト・アルバムに入っていたナンバーですが、中村健吾のベース・ソロ、小曽根のオルガン・ソロがこの曲に新たな魅力を付け加えます。つづく「Cookin' for Hungry Horses」では中川英二郎とマイケル・ディーズのトロンボーン・チェイスがフィーチャーされました。1982年生まれのディーズは、"フランク・ロソリーノ賞"や"J.J.ジョンソン賞"など数々の栄誉に輝く逸材で、東京JAZZではマクブライド側のビッグ・バンドに加わっていました。No Name Horsesへの特別参加で、彼の名はさらに日本のファンに親しまれることでしょう。

スタンダード・ナンバー「Street Of Dreams」は、エリック・ミヤシロの編曲で演奏されました。"ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ"のフロント・マンとしても大活躍中の彼ですが、そのサウンドはNo Name Horsesでも欠かすことのできないものです。ボサ・ノヴァ風のリズムに乗せてエリックのフリューゲルホーン、小曽根のオルガンが暖かで優しいプレイを展開します。リズム・セクションの音が止み、岩持芳宏が奏でるバリトン・サックスの音をバックに4本のフリューゲルホーンがアンサンブルを奏でるパートには、「意表を突くアイデアだなあ。かっこいいアレンジだなあ」と唸らされっぱなしでした。

ところで今回のクラブ公演は、東名阪で計１２ステージが行なわれます。No Name Horsesの管楽器奏者はちょうど12人なので、各ミュージシャンのフィーチャリング・ナンバーをセットごとにお届けしようということになりました。小曽根が持つ黒い袋の中には奏者の名前の書いたボールが12個入っています。その中から一つのボールを、お客さんに無作為で取り出してもらいます。ぼくが見た初日のファースト・セットでは、トランペットの奥村晶の名前の書いたボールがピックアップされました。その場で決まった演目は「My Funny Valentine」。小曽根のきらめくようなピアノを受けて、奥村は絶品のバラード・プレイを披露しました。オーケストラはさらにアルト・サックスの池田篤が書いた「ATFT」（「あたふた」という意味だそうです。セカンド・アルバム収録）、2009年リリース作品の表題曲「Jungle」、『BACK AT THE CLUB』に収められていたカウント・ベイシー楽団の代表曲「Corner Pocket」らを続け、極上のソロ、入念さと豪快さを兼ね備えたアレンジ、大迫力のアンサンブルで超満員のオーディエンスを酔わせました。

マイケル・ディーズはNo Name Horsesのレパートリーと世界観の幅広さに大いに感銘を受けたとのことです。確かにここまで多彩な領域をプレイするビッグ・バンドは稀かもしれません。しかもメンバーは笑顔で、このバンドで演奏する楽しさをふりまきながら、驚くような超絶プレイをガンガンこなします。抜群のテクニシャンであると同時に、卓越したエンターテイナーでもあるNo Name Horses。小曽根のMCにもさらに磨きがかかっています。公演は28日まで続きます。
(原田 2015 2.27）