原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

まるで5月みたいな陽気のなか、歌姫レジーナ・ベルの来日公演がスタートしました。昨年はピーボ・ブライソンとのデュオで「ブルーノート東京」に登場しましたが、今回は彼女がメインを務めます。

オープニングからいきなり、大ヒット・ナンバー「Baby Come to Me」が登場します。彼女は1989年にこの曲をソウル・チャートの1位に送り込み、スターとしての名声を確立しました。2016年、目の前でこの曲を歌うレジーナは、メロディを自在に変化させながら、"いま現在の「Baby Come to Me」"を表現します。豊かな声量と幅広い声域をフルに使って熱唱する彼女を、一丸となってパワフルに煽るバンド・メンバーの見事な呼吸にも唸らずにはいられません。

"ハッピー・バレンタインズ・デイ！　今日は愛の歌をたっぷり用意しました"というMCの後、「Love Medley」、そして最新作『The Day Life Began』から「A Night Of Love」が披露されます。このアルバムはなんと、彼女にとって約15年ぶりのR&B復帰作。近年はゴスペル作品が続いており、それも素晴らしいものでしたが、"R&Bのレジーナ"に愛着を感じる者にとっては、今回の新作登場に対する喜びはひとしおです。それにしても、なんと力強い歌声でしょう。メリスマ（歌詞の1音節に対し、数個以上の音をもって歌う手法）を利かせた歌唱は、耳というよりも心を直接わしづかみにするかのような迫力がありました。

続いてレジーナは「私を音楽に導いた先輩シンガー」として、ナンシー・ウィルソン、ビリー・ホリデイ、アレサ・フランクリンの名をあげ、アレサの「Rock Steady」をカヴァーしました。ここから彼女の最新作のプロデューサー・チーム"ザ・ヘヴィーウェイツ"の一員にして、そしてヴォーカル・グループ"オール４ワン"の花形であるジェイミー・ジョーンズがゲストとして加わります。とても大きな体の持ち主ですが、テナー・ヴォイスによる歌唱はむしろ"繊細"という言葉がぴったり来ます。スーツの左胸ポケットから赤いハンカチをのぞかせ、右側の胸には赤いバラを一輪。オール４ワンのナンバー・ワン・ヒット（11週間全米チャートを独走）でグラミー賞にも輝いたバラード「I Swear」やダンス・ナンバー「You Gonna Be Alright」等をスタイリッシュに歌いあげました。

ジェイミーが汗をふきながら声援に応えていると、赤いドレスに着がえたレジーナが登場。アカデミー賞とグラミー賞に輝いた地球規模のベスト・セラー曲「Whole New World」が始まります。'92年にピーボ・ブライソンとレジーナが放ったデュエット・ソングの大定番ですが、貫録たっぷりのレジーナが約10歳年下のジェイミーをリードするようにハーモニーを綴る今回のヴァージョンも、実に見事なものでした。

オーラスでは客席に降りて花を配り、ファンからの握手ぜめにあっていたレジーナ。彼女も満面の笑顔なら、オーディエンスも皆、はちきれんばかりの笑顔です。公演は16日まで続きます。ハッピーでラブリーなバレンタイン・シーズンを、ぜひどうぞ！
(原田 2016 2.15）

Photo by Takuo Sato