原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ピーター・アースキンは18歳の時にアメリカ有数のジャズ・ビッグ・バンドであるスタン・ケントン・オーケストラに入団し、その後メイナード・ファーガソン・オーケストラで腕を磨きました。そして1978年、24歳でウェザー・リポートのドラマーに抜擢され、日本でも一躍注目の的となりました。

今回の「ブルーノート東京」公演は、オーケストラでウェザー・リポートの曲をプレイするのがコンセプト。まさしく、ピーターにとって"原点回帰"といえるプログラムです。共演のNDR（北ドイツ）ビッグ・バンドは1945年にハンブルクで創立された名門。常に気鋭メンバーを揃え、柔軟な音楽性を保っています。50周年記念アルバム『Bravissimo』では、ゲイリー・バートン、チェット・ベイカー、ジョー・パスらをソリストに迎えたパフォーマンスも聴くことができました。アークティック・モンキーズやホセ・ジェイムズとも共演しているジュールズ・バックリー（ロンドン出身）が指揮を担当。ボブ・ミンツァー、ヴィンス・メンドーサ、ビル・ドビンズ、ティム・ヘイゲンズ、クリスチャン・ジェイコブらの編曲によるウェザー・リポート・ナンバーの数々が、目の前で次々と奏でられていきました。

主要ソリストはアースキンのほか、ルッツ・ブシュナー（テナー＆ソプラノ・サックス）、フリート・フェルシュ（アルト・サックス）、インゴルフ・ブルクハルド（トランペット）、ダン・ゴットシャル（トロンボーン）、ヴワディスワフ・センデッキー（キーボード）、マルシオ・ドクトー（パーカッション）、ユルゲン・アッティグ（ベース）等。緑色のベースを縦横無尽に弾きまくったユルゲンは、ウェザーでピーターと黄金のリズム・セクションを組んでいたジャコ・パストリアスからの影響を強く感じさせるプレイを聴かせてくれました。レパートリーには、「Night Passage」、「Birdland」、「Teen Town」などの大定番に加え、「Waterfall」や「Mysterious Traveller」などかなり渋めのところも混ざっています。「Waterfall」における、4本のフリューゲルホーンとフェンダー・ローズとバリトン・サックスのハーモニーも実にスリリングでした。

オーラスの「Pinocchio」は、ピーターが最初に参加したウェザー・リポートのレコーディング・セッションで取り上げられた曲なのだそうです（アルバム『ミスター・ゴーン』）。もともとはウェザーの設立メンバーの一人であるウェイン・ショーターが'67年にマイルス・デイヴィスのアルバム『ネフェルティティ』に提供したナンバーですが（演奏にも参加）、ピーターにとっても思い入れの深いナンバーなのでしょう。アレンジは彼の教え子であるジェイコブ・マンが担当。卓越したドラム・プレイと、大編成ならではの分厚く輝かしいアンサンブルに、ひときわ大きな拍手が起こりました。
(原田 2016 3.10）

Photo by Yuka Yamaji