2016 10.30 sun., 10.31 mon., 11.1 tue.
CHRISTIAN SCOTT ATUNDE ADJUAH -Halloween Sessionz-
artist CHRISTIAN SCOTT
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
旬のアーティストのライヴを定期的に聴けるのは、本当にエキサイティングなことです。プレイも曲作りもルックスもすべてが印象的なトランペットの昇竜、クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーが、ちょうど1年ぶりに来日しています。
前回はサックスやギターを加えた大型バンドでしたが、今回の楽器編成は、いわゆるワン・ホーン・カルテットです。ぼくはトランペット奏者の実力がもっともよく反映されるフォーマットのひとつだと思っています。つい先日はイタリアの俊英、ファブリッツィオ・ボッソがこの編成で熱いサウンドを聴かせてくれました。アメリカの古き良きモダン・ジャズへの憧れを前面に出したボッソ、出身地ニューオリンズへの愛着を投影しながらも旧来のジャズから外に飛び出そうとするクリスチャン・・・ある意味対照的なふたりですが、今、最も華やかにトランペットを鳴らす奏者の中にいることは間違いありません。
アコースティック・ピアノとフェンダー・ローズは、バンド全体の音楽監督も務めているローレンス・フィールズが担当。ほかのメンバーは新顔です。アコースティックとエレクトリック・ベースを弾くアレックス・クラフィー(24歳)はフィラデルフィア出身で、ロン・カーター、若くして亡くなったドウェイン・バーノ等に師事。ルイス・ヘイズ等の大ベテランのほか、オリン・エヴァンス、JDアレンといった現代ニューヨーク・モダン・ジャズの中堅とも共演を重ねています。ドラムスのコーリー・フォンヴィル(21歳)はファンク・ロック・バンド"ブッチャー・ブラウン"の一員で、ニコラス・ペイトンやギラッド・ヘクセルマン等とも演奏しています。前任者ジョー・ダイソンも怪物でしたが、2台のスネア・ドラムやエレクトリック・ドラム(パッド)を駆使したコーリーのプレイも、圧巻のひとことに尽きます。しかも冒頭2曲では、ハロウィンを意識して"ジェイソン・マスク"をつけて演奏するというエンターテイナーぶりでした。
そしてクリスチャンは、いまや彼のトレードマークと言える変形楽器を縦横無尽にブロウします。トランペットはディジー・ガレスピーのそれよりも遥かに朝顔(ベル)が上向いた仕様。フリューゲルホーンは楽器中央が∞の形のようになっています。彼はほかにもsirenetteというコルネットをより丸くしたような楽器も吹きますが、初日のファースト・セットでは9割がトランペット、あとはフリューゲルホーンでした。マイクには時折エフェクトがかかり、曲によってはプログラミングも採用されていました。マルディグラ・インディアンの祖父ドナルド・ハリソン・シニア(サックス奏者ドナルド・ハリソンの父)に捧げた「The Last Chieftain」はメンバー4人の情熱がぶつかり合うような名演。闇を突き破るようなトランペットの響きと、バスタムを中心に低音で攻めるコーリーのドラム・プレイが、演奏終了後もぼくの耳に深くこだましました。
"このへんでジャズをやろうか。マイルス・デイヴィスが有名にした曲だ"という前置きから始まったのは、「It Never Entered My Mind」。マイルスが1956年にアルバム『Workin'』に収めたバラードです。そのヴァージョンではレッド・ガーランドが、アルペジオを用いた美しいイントロを弾いていました。ローレンスはそれをほぼトレースし、クリスチャンもマイルスばりにハーマン・ミュートをつけてメロディを淡々と奏します(16小節目に出てくる2種の和音は、56年版にはないものでしたが)。「まさかこのまま60年前のジャズを再現するのではあるまいな」と思ったら、コーリーがブラッシュからスティックに持ち替えました。昔のジャズなら、これをきっかけにテンポ・アップするところです。しかしクリスチャンたちは同じスロー・テンポを保ち、そこにドラムスがメロディアスに絡んでいくのです。2台のスネアを、"響線"を生かしているものと生かしていないものにわけ、その違いを際立たせながらコーリーはリズムに躍動感を加えていきます。ローレンスがハーモニーを拡げ、アレックスのベースが地を這い、気が付くとそのヴァージョンは2016年の「It Never Entered My Mind」に生まれ変わっていました。60年前が一気に現在になって、若き日のマイルスと、現在33歳のクリスチャンがひとつに結びつきました。公演は11月1日まで続きます。
(原田 2016 10.31)
Photo by Tsuneo Koga
2016 10.30 SUN.
1st | |
---|---|
1. | R.GROID |
2. | DIASPORA |
3. | WEST OF THE WEST |
4. | IT NEVER ENTERED MY MIND |
5. | THE RECKONING |
6. | THE LAST CHIEFTAIN |
EC. | THE EYE OF THE HURRICANE |
2nd | |
1. | R.GROID |
2. | THE RECKONING |
3. | WEST OF THE WEST |
4. | IT NEVER ENTERED MY MIND |
5. | THE LAST CHIEFTAIN |
EC. | EQUINOX |