原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

「ブルーノート東京」では、ビッグ・バンド・ジャズの魅力を伝える公演が続いています。先日までブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラがディジー・ガレスピーの生誕100年を祝っていましたが、その後29日まで、三宅裕司＆Light Joke Jazz Orchestraがスペシャル・ゲストに高橋愛を迎え、思いっきりハッピーにスウィングするセッションが行われました。公演タイトルは「昭和のアイドルをSWINGしよう」。ある程度の年齢の日本人なら一度は聴いたことがあるに違いないナンバーを、あっと驚くようなアレンジで届けてくれます。

夜鳴きそばのチャルメラのフレーズを模した管楽器のサウンドに導かれ、さっそうと三宅裕司が登場します。軽妙なトークですぐさま観客の心をつかみ、そのまま中森明菜の大ヒット曲「飾りじゃないのよ涙は」の演奏に取りかかります。バディ・リッチを敬愛してやまない三宅のドラム・プレイはメリハリに富んでいて、ハイハットの開閉の巧さ、シンバル・レガート、ときどき入るスネアのアクセント等、どれもが収まるべきところに収まっています。ソリストも気持ちよさそうにアドリブをとり、お客さんも体をゆらしてオーケストラのサウンドを楽しんでいました（ジャズ・ライヴ初体験の方も結構いらっしゃったのではないかと思いますが、そういう方は、本当にいいバンドを"第一弾"に選んだのだと思います）。

続くMCパートで、三宅は「ぼくのアイドルは"ハナ肇とクレイジーキャッツ"でした」と言いました。昼の12時から夜の9時までジャズ喫茶（当時はライヴハウスをこう呼んでいました）で粘って聴いて、植木等に"まだいたのか"と話しかけられた、という、自分のようなクレイジー後追い世代にはヨダレが出そうなエピソードを聞かせてくれたあと、曲はクレイジー3枚目のシングル「無責任一代男」に移ります。メロディを書いた萩原哲晶は、昭和20年代後半から30年代前半の日本ジャズ界で北村英治、鈴木章治などと並んで将来を大いに嘱望されるクラリネット奏者でした。つづいては謎の女性二人組、"雑・ピーナツ"がヴォーカルをとる「恋のバカンス」。もちろん戦後を風靡した双子デュオ、ザ・ピーナッツ（1975年に解散、一度も再結成しないまま二人とも亡くなってしまいました）の大ヒット曲です。この曲を書いた宮川泰も、もともとは"渡辺晋とシックス・ジョーズ"や"平岡精二クインテット"などで妙技を披露したジャズ・ピアニスト。いったいどれほど多くの歌謡曲の名曲が、ジャズを"出汁"にして生まれてきたことでしょう。

「昭和のアイドルの曲を、ぜひ平成のアイドルに歌ってほしかった」という三宅の紹介に続き、スペシャル・ゲストの高橋愛が登場します。モーニング娘。の第６代リーダーで、この時期のモーニング娘。は殆どメンバーの変動がなく、ブラック・ミュージックの要素を取り入れたハイレベルな編曲、磨き抜かれた歌唱とダンスでひときわ突き抜けた存在でした。ぼくは2000年頃からモーニング娘。のライヴを見てきたので、高橋愛のパフォーマンスも加入間もない頃から代々木第一体育館や中野サンプラザで目にしています。そのときは数センチ大にしか捉えることのできなかった彼女が、今、目の前で、しかもジャズのビッグ・バンドをバックに歌っているのは感激以外の何物でもありません。岩崎宏美「ロマンス」、山口百恵「秋桜（コスモス）」、フィンガー５（のちに小泉今日子でリバイバル・ヒット）「学園天国」と、バラードから乗りのいい曲まで、とてもよく熟した歌唱を聴かせてくれました。

トンチの利いたアレンジはトランペット奏者の羽毛田耕士が担当、土井徳浩（アルト・サックス）、和田浩（トロンボーン）、宮木謙介（バリトン・サックス）、佐久間優子（ピアノ）などのソロもすこぶる充実していました。ビッグ・バンド・ジャズの楽しさを伝える"Light Joke Jazz Orchestra"、今年もスウィングとユーモアがいっぱいのステージが繰り広げられました。

(原田 2017 1.30）

Photo by Takuo Sato