原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

エリカ・バドゥ、ジル・スコット、ラヒーム・デヴォーン（余談ですが彼の父は元アーサー・ブライス・バンドのチェロ奏者、アブドゥル・ワドゥドです）、スヌープ・ドッグ、モス・デフ・・・・

こうしたアーティストの名前にピンと来たら、このライヴを是が非でも体験せねばならないでしょう。現代R&B界の縁の下の力持ちというべき凄腕集団、RC&ザ・グリッツが待望のブルーノート東京初公演を開催中です。

リーダーはエリカの音楽監督としても名を刻むキーボード奏者、RCウィリアムズ。他の楽器は2サックス、ベース、ドラムス、そしてMPCドラム・マシーンです。このマシーンを操る男、ジャー・ボーンはエリカの「On ＆ On」のプロデューサーとしても知られています。この曲が入った歴史的名盤『Baduizm』のリリースから、ことしでちょうど20年。まさに絶好のタイミングで、RC&ザ・グリッツのクラブ公演が実現したのです。

ステージはインストゥルメンタル曲から始まりました。粘るような16ビートのリズムに乗って飛び出したのは、今は亡きジャズ・サックス奏者ジョー・ヘンダーソンが書いた「Recordame」。ヘンダーソンはボサ・ノヴァ風のリズムでプレイしていましたが、グリッツはあくまでもファンキーに迫ります。

エヴァン・ナイトのテナー・サックスと新メンバーのジョナサン・モーンズのフルートが軽やかにハモリ、次にエヴァンがアドリブをとろうとしたところ、突如RCはジョナサンのほうを向き、彼にプレイするよう指示します。ジョナサンは一瞬でフルートからアルト・サックスに持ち替え、一心不乱に吹きまくったのですが、この即興の熱かったこと！ぼくはRCに関して、「事前にきっちりと青写真を描き、一段高いところからバンド全体を冷静沈着に見渡しながらパフォーマンスしていくタイプなのでないか」という先入観を持っていたのですが、どうもそうではないようです。当意即妙のノリでどんどんメンバーに指令を送り、それを各人が受け取ってRCに返し、自身も汗だくで鍵盤を弾いてスキャットやラップを行ない、その結果、どんどん響きに"うねり"が増してゆく、ナマモノそのもののサウンド。そんな印象を受けました。ソニー・ロリンズやマイルス・デイヴィスが'50年代に演奏したジャズ・ナンバーを独自にアレンジした「Tune Up Mix」も実に聴きごたえがありました。

ヴォーカルは今回が初来日のクラウディア・メルトン。グリッツの大半のメンバーと同じくテキサス州出身で、父親は「テキサス・ジャズ・フェスティヴァル」の実行委員長を務めるほどの熱烈なジャズ好きだそうです。傑作ニュー・アルバム『The Feel』からの曲に加え、前作『Pay Your Tab』からの「Love Love Love」、エイミー・ワインハウスが遺した「Halftime」など、バラエティに富んだナンバーを次々と歌ってくれました。基本的には抑えた発声をするひと、という印象を受けましたが、それだけに声を張って歌ったときとのコントラストが際立ち、さすがRCの目に留まっただけはある実力派であるとの印象を受けました。ジャー・ボーンのビートとクリオン・エドワーズのドラムスが重なったりずれたりしてポリリズムを生み出し、そこにシンコペーションの利いたナイジェル・リヴァーズのベースが入り込み、RCのキーボードが発するコード（和音）があたりを装飾するなかから、突き抜けるようにしてクラウディアの声が飛び出すさまは、快感のひとことにつきます。巧みに観客とコミュニケーションをはかりながらのパフォーマンスは、見ても聴いても圧巻でした。

『The Feel』を聴きこんでいくもよし、ライヴを浴びた後に『The Feel』に改めて酔いしれるもよし。公演は本日も行なわれます。
(原田 2017 2.24）

Photo by Tsuneo Koga