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ESPERANZA SPALDING

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


まさか彼女のライヴを、再びクラブ規模の会場で見ることができるとは思いませんでした。一挙手一投足が話題を集めるミュージック・シーンのスター、エスペランサ・スポルディングの6年ぶりとなる「ブルーノート東京」公演です。

客席はもちろん超満員。どれだけ多くのファンがこのレアな機会を楽しみにしていたかが伝わってきます。共演メンバーはクリスチャン・スコット等のバンドでも活動したマシュー・スティーヴンス(ギター)、ダニー・マッキャスリン・バンドの鬼才キーボード奏者ジェイソン・リンドナーのプロジェクト"Now vs Now"にも所属するジャスティン・タイソン(ドラムス)。デヴィッド・ボウイやマーク・ボラン等の作品にも携わったロック界のカリスマ、トニー・ヴィスコンティとの共同プロデュースによる話題作『Emily's D+Evolution』のコア・メンバーが集い、鮮烈な"音の対話"を繰り広げます。

オープニングは、先ごろ来日したエルメット・パスコアール作「Ginga Carioca」。動画サイトにアップされている2011年のライヴではエレクトリック・ベースを弾いていましたが、今回はウッド・ベースを弾きながらの歌唱です。しかもそのヴォーカルは、自らのベースではなく、マシューが奏でるギターに合わせてユニゾンで行なわれます。つまりエスペランサはギターと同じ音程とタイミングのフレーズを声で表現すると同時に、それとはまったく異なるベース・ラインを両手で奏でているのです。"いきなり、すごいものを見てしまったなあ"と思っていると、次はボブ・ドロー(今年94歳になるピアノ弾き語りの名手)が、マイルス・デイヴィスとのレコーディングで歌った「Nothing Like You」へ。エスペランサはキッズ向けTV番組「スクールハウス・ロック」(2009年まで放送)の音楽を通じて、幼いころからドローの音楽に親しんできたそうです。まずギターとドラムだけの伴奏でひとしきり歌い、次にウッド・ベースを弾きながら猛烈なスキャットへと突入します。つづいて披露されたのはアレサ・フランクリン「All the King's Horses」とチック・コリア「Humpty Dumpty」のマッシュアップ。途中、思いっきりアップ・テンポの4ビートになりましたが、ジャスティンの"音の伸びない"シンバルがベースやギターと絡み合って、実にシャープな響きを生み出します。先ほど来日したエリック・ハーランドやケンドリック・スコットを聴いていても思いましたが、このところのドラマーはシンバル・レガートの音色の間隔が本当に短くなっています(これが1950年代とか60年代のモダン・ジャズですと、鋲のついたシズル・シンバルを使って、長めの余韻を残すことが多いのですが)。

フレットレスのエレクトリック・ベースに持ち替えてからのナンバーでは、ウェイン・ショーターの楽曲に歌詞をつけた「Endangered Species」が圧巻でした。アルバム『Radio Music Society』ではレイラ・ハサウェイを迎えてカヴァーしていましたが、もちろんこの日はエスペランサ本人がフロントに立ちます。跳躍の激しいメロディを歌いこなしながら、猛烈に歯切れのよい指さばきとビブラートを利かせたロング・トーンを交えたベース・プレイでクライマックスをつくるエスペランサに、場内は沸きっぱなしです。オーラスでは再びウッド・ベースを手にして、"弾きながら歌を歌う"+"ちょっと凝った手拍子を打つ"+"ベースの胴体をパーカッションのように叩く"という3つの行為を繰り返すソロ・パフォーマンスを披露。才媛エスペランサのバラエティに富んだステージに、さらなるアンコールを求める声がやまなかったのはいうまでもありません。公演は29日まで行なわれます。
(原田 2017 3.28)


Photo by Tsuneo Koga

SET LIST

2017 3.27 MON.
1st
1. GINGA CARIOCA
2. NOTHING LIKE YOU
3. HUMPTY DUMPTY / ALL THE KING'S HORSES
4. CINNAMON TREE
5. ENDANGERED SPECIES
6. I ADORE YOU
EC. PYRAMID
 
2nd
1. NOTHING LIKE YOU
2. WINTER SUN
3. CINNAMON TREE
4. ENDANGERED SPECIES
5. HUMPTY DUMPTY / ALL THE KING'S HORSES
EC1. UNCONDITIONAL LOVE
EC2. I ADORE YOU

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