原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

先日まで公演していた"ウォー"に続いて、またしてもアメリカ西海岸の人気集団の登場です。ゴードン・グッドウィン率いるビッグ・ファット・バンドが今年も3000マイルの距離を超えて日本にやってきました。スケールが大きくて、目の前がパッと明るくなるような音作りは保証付き。ゴードンのMCや指揮をするアクションもどんどん華やかになっています。グラミー賞連続受賞などの快挙が、バンドにいい影響を与えているのは間違いのないところでしょう。

オープニングから、いきなり新曲です。タイトルは「T.O.P.Adjacent」。カリフォルニア州オークランドが世界に誇るファンク・ユニット、タワー・オブ・パワーに敬意を表したナンバーで、今回がワールド・プレミアとのことです。ゴードンのキーボードがファンキーなリズムを奏で、エリック・マリエンサルのアルト・サックスが熱いソロを繰り広げます。エリックは先日、チック・コリア・エレクトリック・バンドで登場したばかりですが、絶好調の彼のプレイが日本で定期的に味わえるのは、実に嬉しいものです。

今回の公演にはまた、ことしで生誕100年を迎えるドラマー兼ビッグ・バンド・リーダー、バディ・リッチに捧げるパートも含まれていました。彼は"ドラムの神様"と呼ばれ、映画「セッション（原題；Whiplash）」にも主人公の尊敬するドラマーとして写真や動画が登場します。ゴードンは13歳か14歳の頃、親の持っていた『Swingin' New Big Band』（'66年）を聴いてリッチのビッグ・バンドの大ファンになったそうです。トリビュート・コーナーのオープニングは、そのアルバムのA面1曲目に入っていた「Ready Mix」（ビル・ホルマン作編曲）。ドラムスのレイ・ブリンカーはリッチばりに、ハイハットでリズムを刻みながら大きな声で"１，２，３，４"とカウントをとりました。続く「New Blues」はアルバム『The New One!』（'68年）からのセレクションで、ドン・パイストラップ（Don Piestrup）の作編曲。エリックのフルートとミュートをつけたトランペット・セクションのアンサンブルの美しさ、ゴードンのスウィンギーなアコースティック・ピアノ・ソロに引き付けられました。「You Rotten Kid」も同じ作品からのナンバーで、作曲はバディ・グレコ（歌手としても著名）、編曲はディック・グローヴ。エリックとサル・ロザーノのアルトが爽快な掛け合いを聴かせます。テナー・サックス奏者ドン・メンザが作編曲した「Groovin' Hard」は、'70年のアルバム『Keep the Customer Satisfied』より。メンザに敬意を示すように、ここではブライアン・スキャンロン、ジェフ・ドリスキル、そしてゴードンの３者が痛快なテナー・バトルを繰り広げます。それが終わった後に、サックス・セクション全員で演じるアンサンブル（ソリ）も見事でした。トリビュート・コーナーのラストは、ゴードンが書きおろした世界初公開ナンバー「The Buddy Complex」。リッチの十八番１５トラックを盛り込んだ組曲風の作品です。次々と変わるテンポ、白熱のアドリブ、そしてラストを飾るレイ・ブリンカーのドラムとジョーイ・デレオンによるパーカッションの壮絶なやりとり・・・、まさしくビッグ・ファット・バンドが空前のスケールでお送りする超大作です。

もちろん「The Jazz Police」などの人気オリジナル・ナンバーも披露、今回の来日公演も、どこをとっても楽しめること間違いなしです。ライヴは２０日まで続きます！
(原田 2017 5.18）

Photo by Yuka Yamaji