2018 8.26 sun.
Blue Note Tokyo 30th Anniversary presents / AVISHAI COHEN TRIO WITH 17STRINGS @KIOI HALL
artist AVISHAI COHEN
2013年に、弦音を思うまま入れた『アルマー』を発表。その後、赴いた土地のオーケストラと協調するライヴ・プロジェクトを様々な都市で持ってきたイスラエル人ジャズ・ベーシストのアヴィシャイ・コーエンが、その延長にある公演をついに東京で行った。今回の出し物に際し、コーエン自らが関与する新たな編曲が用意された。
アゼルバイジャン出身ピアニストのエルチン・シリノフとすでに複数のコーエンのアルバム録音に関与しているイスラエル人ドラマー/打楽器奏者のイタマール・ドアリという現在のアヴィシャイ・コーエンのワーキング・トリオに、松本裕香をコンミスに置く17人の若手弦楽器奏者たちがつく。生音の重なりに留意されたホールに満ちるトリオ音とチャンバー・オーケストラの調べの響きは、まさにこの場であるからからこその贅沢な誘いを持っていた。
そんな両者の協調は、まさに自由自在。コーエン曲を日本人奏者たちだけで演奏もすれば、当然のことながらスリリングに重なる曲もあるし、一方ではコーエン・トリオだけでパフォーマンスする場合もある。また、いくつかの曲でコーエンはヴォーカルも取る。適切に変拍子にも対応したチェンバー・オーケストラの面々は、終盤にはコーエンの歌唱にあわせてコーラスを付けたりもした。グッド・ジョブ!
万感の情を込めるヴォーカルも魅力的なコーエンのベース演奏は、やはり雄弁。毎度のことだが、ときにはボディを叩きながら弾くなどもしつつ繰り出されるベースの調べは重厚にして、ダイナミックなメロディ性とストーリー性を抱える。今回、ベースの様々な効用を再認識させられた人も少なくなかったのではないか。また、ドラムとカホン他のパーカッションを組み合わせたセットを用いるイタマール・ドアリの型にはまらない叩き方(右手はスティックを持ちシンバルやハイハットを扱い、左手は素手でいろいろ打楽器を叩く場合が多かった)は本当に目と耳を惹くものであったし、ピアノのエルチン・シリノフの日常と非日常をリリカルにメビウスの環で繋いでしまうかの如き指さばきも異彩を放つ。
そして、大きく頷かされたのは、そのスケールの大きな総体は"ジャズ+クラシック"という図式に陥ることなく、現在エルサレム近郊に住むアヴィシャイ・コーエンというイスラエル人音楽家の自負と好奇心を明晰に具現するものになっていたこと。当然の事なら、演目はコーエンの生理に沿って様々。自らのルーツにある古曲も取り上げれば、レバノン人が作った曲も披露したし、さらにはスペイン語で歌うアルゼンチンのフォルクローレ曲まで登場する。
<ジャズ、トラッド、クラシックといった音楽様式>、<ルーツや地域属性を見直し、掘り下げる作法>、また<研ぎすまされた演奏を追求する一方、空虚な高尚さから離れるヴォーカや親しみやすい旋律曲の採用>など。そうした様々な用件が提出され、それらが綱引きし、見事に融解する贅沢なコンサート。それは、はからずもアコースティック・ジャズの有効な今のあり方や、その発展性も照らすものであったのは言うまでもない。
text : 佐藤英輔
出版社勤務を経て、フリーランスの物書きとなる。グルーヴと飛躍する感覚と酔狂さがある音楽が好み。ライヴを中心に扱ったブログはこちらから
Photo by Takuo Sato