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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


音楽による世界旅行と時間旅行を味わいました。抜群のテクニック、最高のエンタテイメント性、溢れるコスモポリタン性を兼ね備えた粋なオーケストラ、ピンク・マティーニがついにブルーノート東京初登場です。

結成は1994年、オレゴン州ポートランドにて。これまで9点のアルバムをリリースし、ハリウッド・ボウルやロイヤル・アルバート・ホール等でのライヴを大成功させてきました。日本では由紀さおりとのコラボ・アルバム『1969』で大きくブレイクしましたが、今回はそのカヴァー公演以来、我が国では約5年ぶりのステージにあたるとのことです。この来日に合わせ、ファースト・アルバムの新装版『サンパティーク20周年記念盤』もリリースされました。

オーケストラとの再会を待ちわびたかのように、会場は超満員。バンドスタンドに所狭しとメンバーが揃い、ラヴェルの「ボレロ」を演奏しはじめます。管楽器+弦楽器+打楽器が絶妙なアンサンブルを奏で、リーダーのトーマス・ローダーデールが華麗なピアノを響かせます。オクターヴ奏法の粒立ち、そしてどこかカーメン・キャバレロやスタンリー・ブラックを思わせる、"cascades"と形容したくなるグリッサンド。この1曲でピンク・マティーニはブルーノート東京の空気を完全にものにしたようです。

演奏カテゴリーはクラシック、ラテン、ジャズ、歌謡曲など多岐にわたり、使われる言語は英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、日本語など。いろんな言語を自在に操るチャイナ・フォーブスの歌唱も"素晴らしい"のひとことにつきますが、なによりもぼくが驚いたのは日本語の鼻濁音もしっかり発音しながら歌っていたことです。いつの間にか日本人のあいだでもすっかり聞かれなくなっていた鼻濁音が、まさか彼女の歌で耳にできるとは。また「菊千代と申します」(ムード歌謡のカリスマ"和田弘とマヒナスターズ"のカヴァー。ということはコーネリアスのファンも要チェックでしょう)ではマスミ・ティムソンの箏をフィーチャー。このアレンジも気が利いていました。まずは世界的に知られる箏曲「六段の調」(1600年代の楽曲)のさわりを演奏し、実に自然に「菊千代」に入っていくのです。歴史的旋律がいかに歌謡曲に導入されているかを、ピンク・マティーニは実にわかりやすく音で説明してくれました。

箏は「夕月」でも活躍しましたが、なんと、ぼくが観たセットではこの曲の創唱者である黛ジュンがサプライズ・ゲストとして登場、見事な共演を聴かせてくれました。コスチュームはもちろん、'60年代からのトレードマークであるミニスカート姿です。黛ジュンはさらに「Fly Me to the Moon」もスウィンギーに歌唱。「月をテーマにした曲でも、日本とアメリカではずいぶん雰囲気が違うものだなあ。あと数年すれば、"ムーンライト伝説"もこうした古典のなかに入るのだろうなあ」と思いながら、ぼくは両者のコラボレ―ションを楽しみました。

ティモシー・ニシモトが歌う「ズンドコ節」は、この曲の基といわれる「海軍小唄」の歌詞に、ザ・ドリフターズ(アメリカのドゥーワップ・グループではありません)がヒットさせた「ドリフのズンドコ節」のアレンジを合わせたもの。場内を笑わせ、乗せたあと、最後は黛ジュンも登場してアリ・バホーゾ作「Aquarela do Brasil」を賑やかに演奏、オーディエンスを総立ちにさせました。

公演はあと2日間あります。サプライズ・ゲストは登場するのか?出るとしたらそれは誰なのか?期待に胸をふくらませて、ぜひ楽しみにいらしてほしいと思います。
(原田 2018 10.28)

Photo by Takuo Sato

SET LIST

2018 10.27 SAT.
1st & 2nd
1. BOLERO
2. AMADO MIO
3. SYMPATHIQUE
4. TAYA TAN
5. ICH DICH LIEBE
6. DONDE ESTAS, YOLANDA?
7. 菊千代と申します
8. THE BUTTERFLY SONG
9. 夕月
10. FLY ME TO THE MOON
11. SONG OF THE BLACK LIZARD
12. YO TE QUIERO SIEMPRE
13. ズンドコ節
EC. BRASIL

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