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SHAI MAESTRO TRIO @COTTON CLUB

artist SHAI MAESTRO

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


「いろんなSNSで音楽が聴ける中、ぼくらの生演奏に足を運んでくれて本当にありがとう」。このひとことに胸が熱くなりました。今をときめく鬼才ピアニスト、シャイ・マエストロがECMレーベルからの第一弾にして最新作『ザ・ドリーム・シーフ』を携えて来日中です。本日からブルーノート東京に登場しますが、ぼくは一足先に、昨日コットンクラブで行なわれたライヴを楽しみました。

共演者はベースのノーム・ウィーゼンバーグ(彼のアルバム『Roads Diverge』にシャイが参加しています)、ドラムスのアーサー・ナテック(ティグラン・ハマシアン・トリオのメンバーとしてもおなじみでしょう)。「まずはインプロヴィゼーションから始めたいと思う」という前置きから、シャイの無伴奏ピアノ・プレイが始まります。おそろしく粒の揃った潤いのある音、しかも小音量で鳴らしたときのトーンの立ちっぷりが最高なのです。シーンと静まった客席の空気を至高の音色で満たし、やがて最新作からの「New River, New Water」に移行します。アルバムではオフリ・ネヘミヤのハンド・ドラムも印象的でしたが、この日はアーサーが薫り高いブラッシュ・プレイでシャイのピアノを鼓舞します。アルバムでは3分に満たなかった「A Moon's Tale」もドラマティックに拡大され、テーマ・メロディの部分ではノームが素晴らしく音程の良いベースを、シャイのピアノにぴったりと付けます。シャイの音楽、そして彼のトリオが持つダイナミクス(めりはり)はとにかく尋常ではありません。いわゆる強弱という概念の、強や弱の中にそれぞれ30種ぐらいのグラデーションがある印象を受けます。とにかく表情豊かでキメ細かくて、緊張感と和みのバランスが絶妙なサウンドです。次にどんなフレーズを届けてくれるのかと前のめりになりながら、ぼくは音に引き込まれるばかりでした。

ステージ後半ではまた、先日他界したトランペット奏者ロイ・ハーグローヴへのトリビュート演奏も行なわれました。曲目はビング・クロスビーやビリー・ホリデイが歌った知られざるスタンダード・ナンバー「Guilty」、シャイはこの曲をピアノ奏者ジョニー・オニール(元アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ)とロイの共演盤『In the Moment』で聴き、大いに感銘を受けたそうです。1950年代の空気が突如目前に舞い降りたかのようなコージー(cozy)なパフォーマンスに、"オスカー・ピーターソンを聴いてジャズに開眼した"というシャイのバイオグラフィを思い出しました。

セットリストはなく、その場で演奏曲が決まるシャイ・マエストロのステージ。いったい何が飛び出すか、どんな世界に案内してくれるのか。本日からのブルーノート東京公演、絶対に絶対に見逃すわけにいきません!ジャズ・ファンはもちろん、室内楽ファン、ECMファン、ピアノ・ファン、ポストロック・ファン、進行形の音楽を愛するファン、あらゆる方に訴えることでしょう。
(原田 2018 11.12)


Photo by Yuka Yamaji


●SHAI MAESTRO TRIO
2018 11.12 mon., 11.13 tue. ブルーノート東京
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