2018 12.10 mon.
Yohji Yamamoto x Live
artist Yohji Yamamoto
山本耀司のブレないプロテスト精神が生み出す服と音楽の一貫性たるや
その日は、タクシーでブルーノート東京へ向かっていた。さてもう着くぞ、というタイミングで前方に目をやると、ブルーノート東京の前は黒山の人だかり。なかなか見ない光景である。----いや、こう書くと誤解を招く。正確にいえば、「(黒い服を着た人たちが)黒山の人だかり」で、そうした光景が珍しい、ということだ。皆、この夜のライブアクト「YOHJI YAMAMOTO × LIVE」の告知ポスターの前で記念撮影をしている。彼、彼女たちの多くが〈YOHJI YAMAMOTO〉、あるいは関連ブランドの服をまとっているのは改めて申すまでもないだろう。YOHJIファン大集合の一夜である。
予定の開演時間を少し過ぎたところで、バンドメンバーがステージへと向かう。衣裳は〈YOHJI YAMAMOTO〉の服だろうか、全員黒でシックな出で立ちだ。やがてこの夜の主役、山本耀司が登場すると、会場は大きな拍手に包まれた。1曲目はシンプルでアーシーな8ビート・ロック「Fatal Woman」。抑制の効いた演奏をバックに、テレキャスターを弾きながら歌うその姿は、約19年ぶりの単独ライブとは思えない威風堂々とした佇まいである。続く「ガラスの時代」は、現代に対するプロテストソングといった面持ちのフォーク・チューン。4曲目の「葉桜並木」では、フランス語での歌唱とブルースハープを披露した。続いての「圭子の夢は夜ひらく」(ご存知、藤圭子の名曲のカバー)と「It's only yesterday」では、古賀芽衣がボーカルを執ったが、いわゆる歌い上げ系でないストレートな歌声が実に印象に残るものであった。
ステージ終盤の2曲は「悲しくてやりきれない」と「いい子だね」。前者はザ・フォーク・クルセダーズのカバーで、山本耀司と古賀芽衣のデュエットが詩情豊かに響いた。本篇ラストの「いい子だね」は、唐十郎の「紅テント」を思わせる歌詞のアンダーグラウンド・フォークロック。ブルーノート東京が60年代後半の新宿にトランスフォームしたような気がした。鳴り止まない拍手を受け、「女性の横向きの姿が好き、後ろ姿はもっと好き」というMCから「君の背中」、そして「Don't you come in the shadow?」の2曲をアンコールとして奏で、「次はパリで会いましょう!」と、この特別な一夜を締めくくった。
先に「プロテストソング」や「60年代後半の新宿」などと書いたが、山本耀司の服作り----欧米流のモードにアンチを唱えて、日本的な陰影の美、黒の美学を貫いてきた姿勢----と氏の音楽には、見事な一貫性がある。そして、そうした一貫性に安住するだけでなく、タブーを打ち破り、自己を更新してゆくその表現に我々は心打たれるのだ。「音楽で自分自身を表現したい」という山本耀司のライブへの思いは、こうして見事に成し遂げられた。
text : 青野賢一
ビームス創造研究所クリエイティブディレクター、〈BEAMS RECORDS〉ディレクター、文筆家、DJ。『CREA』(文藝春秋)、『ミセス』(文化出版局)などで連載を持つ。
Photo by Yuka Yamaji
2018 12.10 MON.
1st & 2nd | |
---|---|
1. | Fatal woman |
2. | ガラスの時代 |
3. | Dog-walk walking |
4. | 葉桜並木 |
5. | 圭子の夢は夜ひらく |
6. | It’s only yesterday |
7. | 悲しくてやりきれない |
8. | いい子だね |
EC1. | 君の背中 |
EC2. | Don’t you come in the shadow? |