原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ブルーノート東京の"吉例"が今年も始まりました。この2019年で結成6周年となるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロの連続公演です。1月5日はマーカス・ミラー、1月7日と8日はパット・メセニーとのコラボレーション。年頭から、カリスマとオールスターが音の火花を散らします。

5日のセカンド・セットは、約110分もの熱演につぐ熱演でした。テーマ・ソングの「Trains」を豊穣なアンサンブルとパワフルなソロで盛り上げたあと、いよいよスーパー・ベーシスト、マーカス・ミラーを迎え入れます。当オーケストラの音楽監督/アレンジャー/トランペッターのエリック・ミヤシロにとって、マーカスは少年時代からのヒーロー。"トランペットを吹いていると、その反動で低音にも惹かれていくんです。ぼくは並行してベース・ギターを弾いていたこともあるんですが、マーカスのプレイはそのときからの憧れでした"というような前置きから始まったのは、デイヴィッド・サンボーンに提供した「Run for Cover」。重厚なベースの音色、カラフルなホーン・アンサンブルの双方を生かしたアレンジにエリックの才気が光ります。

"次はモータウン・ナンバーだ。テンプテーションズ、知っているかい？"というマーカスの呼びかけから、「Papa Was a Rolling Stone」に移行します。軽くステップを踏みながら、ときに左手で高音フレーズ、右手で低音リフを同時に奏でて一度に複数のベース・プレイヤーが合奏しているような効果を生み出す神業が炸裂しました。中川英二郎のトロンボーン・ソロもイマジネーションに富み、続く「Camel Island」ではサックス・セクションが極上のソリを披露。その後を受けて登場した本田雅人のアルト・サックス・ソロも爽快そのものです。

この夜は、マーカスに影響を与えた伝説的ベーシスト、ジャコ・パストリアスの楽曲も２つ演奏されました。１つは美しいワルツ「Three Views of a Secret」。マーカスは5弦フレットレス・ベースを用いて歌うようにメロディを弾き、それをフルート中心の柔らかなアンサンブルが包み込みます。一転、「Teen Town」ではグルーヴ炸裂。トロンボーンの池田悠人と並ぶオーケストラ最年少メンバー、川口千里のドラムスもソリストをこれでもかと煽り立てます。さらにマーカスはバス・クラリネットを用いてロマンティックなスタンダード・ナンバー「My One and Only Love」をしっとりと聴かせ、そのメロディから「TUTU」のイントロを導き出します。マーカスがプロデュースとほとんどの楽器演奏・作編曲を行なったマイルス・デイヴィスの同名アルバムのタイトル・チューンです。マイルスはミュート・トランペットで「TUTU」を演奏しましたが、エリックはミュートとオープンを使い分け、さらにエフェクターも用いて"コズミック"という言葉がぴったりのブロウを展開。マーカスと納浩一によるベース・ソロ交歓も、この日の名シーンのひとつでした。ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラとマーカスの共演は昨年の5月以来でしたが、今回初めてご覧になる方、前回に続いて来場した方、どちらの耳と心に深く刻まれるニューイヤー・ライヴになったのではないでしょうか。

また今回のステージは、紙の譜面ではなく、電子楽譜専用端末「GVIDO」（グイド）を用いて行なわれました。楽譜約4000曲（ノート約16000ページ分）が収まるという優れもので、ミュージシャン間でも大好評とのことです。ロビーに実物が展示してありますので、ぜひ従来の譜面との違いをご覧になっていただけたらと思います。

ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロの公演は1月7日と8日、今度はパット・メセニーをコラボレーション・ゲストに迎えて開催されます。こちらももちろん、必見必聴です！
(原田 2019 1.5）