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KENDRICK SCOTT ORACLE

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原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO


昨年6月に行なわれた盛りだくさんのスペシャル・ライヴ"BLUE GIANT NIGHTS"の中で聴いて感銘を受け、一刻も早いワンマン公演の開催を望んだリスナーも多いことでしょう。お待たせいたしました。ケンドリック・スコット率いる"オラクル"による、ブルーノート東京での単独ステージが始まりました。しかも約4年ぶりのニュー・アルバム『A Wall Becomes A Bridge』(プロデュースは盟友デリック・ホッジ)を携えての登場です。

メンバーはスコットのドラムスの他、ジョン・エリス(テナー&ソプラノ・サックス)、マイク・モレノ(ギター)、テイラー・アイグスティ(ピアノ、シンセサイザー)、ジョー・サンダース(ベース)という黄金の顔ぶれ。新作からのナンバーもホッジ作の流れるような「Don Blue」、ブラック・アーツ・ムーヴメントに参加した詩人ソニア・サンチェスの声をサンプリングした組曲風「Archangel」、アイグスティの書き下ろしでマーティンとスコットのヴォイスもフィーチャーされる「Becoming」等、しっかり味わわせてくれました。抜群のチームワーク、各楽器間の緻密な絡み合い、時おり登場する狂おしいほど抒情的なパッセージに息をのみ、わくわくし、現在進行形ジャズの創造の場に立ち会う喜びに震えたのは自分だけではないはずです。

改めていうまでもないですが、スコットのプレイは本当にニュアンスに富んでいます。スティックの持ち方を逆さまにして思いっきり豪快な音を出したり、スティックの側面をシンバルの側面に打ち付けて固く金属的な音を出したり。これほどリム・ショット(ふちを叩くこと)を、多彩に駆使しまくるドラマーも珍しいといえるでしょう。モダン・ジャズ黄金時代にはアート・ブレイキーやフィリー・ジョー・ジョーンズが時折ふちを叩いてリズムにアクセントを加えたものですが、スコットのそれはアクセントというより、ソリストに対してカウンター・フレーズを奏でているかのようです。スティック(木)とリム(金属)の音のぶつかりあいが、空間に漂うようなモレノのギター、中高域が異様にクリアーなエリスのテナー・サックスと絶妙に融合するのです。またブラッシュの細やかな音色は、まるでタップダンサーが砂の敷き詰められた板の上で優雅に踊っているかのよう。スネア・ドラムの響線を外し、軽く弾むような音を出していたのも印象に残りました。本当にメロディアスで、歌うようなドラミングです。しかし、かといってグルーヴをお座なりにすることはありません(そのあたり、さすが末期クルセイダーズのメンバーです)。スコットのドラムスは、リズムとメロディの両方を強力かつ柔軟に操っているのです。

「Becoming」の後半では、彼を特徴づける一つである"足スネア・ドラム"(響線の共鳴を生かしつつ、勢いよくペダルを踏みこみます)も炸裂しました。「ドラムスはこう演奏しろとか、太鼓やシンバルはこういうやりかたで叩けとか、誰が決めたんだ?」といわんばかりの柔軟性いっぱいの手足さばきは、先ごろ来日したばかりのシンディ・ブラックマン・サンタナとは一味も二味もベクトルの違う、しかし同じように魅力たっぷりのものです。

5人は鳴りやまぬ拍手に応え、最後に「Gingerbread Boy」を猛烈にスウィンギーに演奏しました。作者はテナー・サックス奏者のジミー・ヒース(93歳になりますが健在です)、彼が1964年に吹き込んだアルバム『On the Trail』で初めて世に紹介された曲です。偶然にも楽器編成はオラクルと同じなので、聴き比べるとこの50数年の間にジャズがいかに変化したか、もしくは変化しなかったかがたちどころにわかると思います(ケニー・バレルとマイク・モレノ、ウィントン・ケリーとテイラー・アイグスティの対比もできるのです)。『A Wall Becomes A Bridge』はスコットにとって絶対の自信作であるとのこと、ぼくも心から同意します。ライヴに行ってからアルバムを聴くか、それともアルバムを聴いてからライヴに行くか。どちらにしてもあなたは現在のケンドリック・スコット・オラクルに打ちのめされることでしょう。公演は16日まで続きます。「あまりの素晴らしさに全セット、通いつめた」というオーディエンスも多数、登場するに違いありません!!
(原田 2019 5.15)


Photo by Takuo Sato

SET LIST

2019 5.14 TUE.
1st
1. DON BLUE
2. MANTRA
3. WITNESSED BOT NOT MEASURED
4. ARCHANGEL
5. BECOMING
6. MOCEAN
EC. GINGERBREAD BOY
 
2nd
1. NEWEYES
2. MOCEAN
3. THE CATALYST
4. VOICES
5. DON BLUE
6. ARCHANGEL
7. CYCLING THROUGH REALITY
EC. OMEZELLE

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