原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ついにこの時がやってきました。三宅裕司＆ライト・ジョーク・ジャズ・オーケストラ、2年ぶりの「ブルーノート東京」公演です。テーマは「ミュージカルをSWINGしよう」。その名の通り、華やかで歌心に溢れた極上の時間を味わうことができました。

本来ならこのライヴは今年3月に行なわれているはずでした。しかし年頭にリーダー・三宅裕司が大腿骨を骨折し、延期に。しかし会えない時間が余計に会いたい気持ちを育てるというのでしょうか、開演前から場内は以前にも増して異様な熱気に包まれています。

オープニング・ナンバーはリッチなサックス・アンサンブルを生かした「丸美屋」。同社のCMキャラクターを務めている三宅裕司ならではの選曲です。この曲と軽妙なトークで一気に観客の心をつかみ、ミュージカルを生んだ国に捧げて「アメリカ国歌」を。ジャズのオーケストラではデューク・エリントン楽団やスタン・ケントン楽団がレコーディングを残していますが、やはりアメリカ人にとっては距離をとりにくいのか、彼らのアプローチはかなり原曲重視（ジャズ風にしていない）でした。しかしライト・ジョーク・ジャズ・オーケストラは実にスウィンギーにこの曲を料理します。三宅はまず柔らかなブラッシュ・ワークから出て、いつの間にかスティックに切り替えて歯切れ良い4ビートを刻みます。「いつ、ブラッシュからスティックに持ち替えたのだろう？」と不思議になるほどの早業です。

中盤では現役タカラジェンヌという触れ込みの謎の2人組、涼風マヨネーズと葉月ルーペが登場。しゃべりが自然に昭和歌謡につながってしまうトーク（実にミュージカル的です）で笑わせ、「星に願いを」等では見事なヴォーカル・ハーモニーを聴かせます。笑いとハモリの両立という、実に難しいことを余裕たっぷりにこなしているのが、このふたりのすごさです。"日本ミュージカル界の至宝"スペシャル・ゲストの中川晃教は、「Sherry」から登場し、この曲を創唱したフランキー・ヴァリ以上ではないかと思われるほどの、突き抜けるようなハイトーンを届けてくれました。

「アッキー（中川の愛称）の歌を聴いていると感動で涙が出てくる。ついに共演できてうれしい」と語る三宅裕司ですが、ただの和気あいあいのセッションに終わらないのもまた、このオーケストラの奥深さです。三宅自身が「このアレンジを見て、あまりの難しさに目から腸が出そうになった」と語った「It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing)」は、猛烈にチャレンジングな編曲が施されたナンバー。三宅は導入部にマレットを用いてドラマティックな効果をあげ、やがて中川のスキャットと寺井雄一のテナー・サックスが激しくバトルを繰り広げました。テンポは何度も変化し、背後のアンサンブルが鋭くメロディに食い込みます。

全楽曲のアレンジはトランペット奏者の羽毛田耕士が担当、寺井、谷殿明良（トランペット）、土井徳浩（アルト・サックス）、和田浩（トロンボーン）らと共に印象的なソロも繰り広げました。曲が終わると必ず三宅がソリストを紹介するのも、素晴らしい趣向だと思います。聴かせて、楽しませて、笑わせる"ライト・ジョーク・ジャズ・オーケストラ"。次回の登場が早くも楽しみです！

(原田 2019 7.22）

Photo by Makoto Ebi