原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

とてつもなく豊富なキャリアを誇るブラジルきってのグルーヴ・マスターたちが、待望の再共演ライヴを開催中です。驚愕の掘り起こし音源『デモ・トラックス1973-75　Vol.1&2』が好評のアジムスと、シティ・ポップ～ブギーを横断する最新会心作『センプリ』をリリースしたばかりのマルコス・ヴァーリが、約15年ぶりに東京に集ったのです。アジムスというグループ名が、マルコスの1969年作品『Mustang Cor De Sangue』に収められている楽曲「Azymuth」に由来することはよく知られたエピソードかもしれません。ドラマーのイヴァン・コンチは、何度も"俺たちのゴッドファーザー（名付け親）"とマルコスのことを紹介していました。

ステージはまずアジムス単独で始まりました。イヴァン、そしてベーシストのアレックス・マリェイロスはオリジナル・メンバー。キーボードは2012年に亡くなったジョゼ・ホベルト・ベルトラミに替わり、キコ・コンティネンティーノが担当します。フェンダー・ローズやシンセサイザーの同時演奏、浮遊感あふれるコード・ワークには、先代の技を見事に継承している印象を受けました。さらに彼は、アドリブの中に次から次へと別の曲のメロディを引用します。「Castelo」にはジョアン・ドナート作「Amazonas」の一節が登場するかと思えば、「Partido Alto」では「トルコ行進曲」は出るわ、ラテン・ナンバー「ティコ・ティコ」は出るわ、さらにラヴェルの「ボレロ」までが引用されます。キコの体内には、ありとあらゆるメロディが蓄積されているに違いありません。

猛烈な拍手を受けて、マルコスとジェッセ・サドッキが登場します。曲は、誰もが聴きたかったに違いない「Azymuth」。この曲を、この顔合わせで、しかも生演奏で聴けるのは、音楽ファンにとってちょっとした事件である・・・といっても過言ではないでしょう。マルコスとキコ双方のキーボードが生み出す音の厚み、ドラム・セット前方の一段高いところに立っている大きなシンバルを嬉々として打ち鳴らすイヴァン、もう最高です。ジェッセは前半でトランペットの音色を高らかに響かせ、中盤ではフリューゲルホーンに持ち替えてメロウに、さらにラストにかけてはトランペットにミュートをつけた鋭いトーンでアンサンブルに彩りを加えました。続いては、これもオーディエンス狂喜乱舞の「Samba de Verão（サマー・サンバ）」と「Vôo Sobre O Horizonte（フライ・オーヴァー・ザ・ホライズン）」。マルコス、アジムス双方の大定番ですが、これをメドレー形式ではなく、マッシュアップ状態のアレンジ（マルコスの書きおろしだそうです）で聴かせるのもまた、興味をそそります。さらに現夫人のパトリシア・アルヴィもバック・ヴォーカルとパーカッションで参加し、『センプリ』から「Alma」、2003年の作品『Contrasts』から「Parabéns (Dança Do Daniel)」等を聴かせてくれました。

なにしろマルコスもアジムスも、名曲には事欠きません。全公演通いつめるオーディエンスも相当いらっしゃるのではないかと思います。今日と明日に開催されるステージではいったいどんなナンバーが飛び出すのか、ぜひ期待いっぱいにしてお越しください！
(原田 2019 10.26)

Photo by Tsuneo Koga