2019 11.12 tue., 11.13 wed.
The EXP Series #31 / JOEL ROSS "Good Vibes"
artist JOEL ROSS
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
名門ブルーノート・レコーズ80周年の切り札。そう呼びたくなる、あまりにもセンセーショナルな存在がジョエル・ロスです。
シカゴ生まれ、まだ23歳の彼は幼少の頃からドラムを始めとする打楽器に親しみ、やがてヴィブラフォンに転向。ボビー・ハッチャーソン、ステフォン・ハリス(このふたりもブルーノート・レコーズに数々の名盤を残しています)ら先輩からの薫陶を得て、2019年にブルーノート・レコーズから待望の初リーダー・アルバム『キングメーカー』を発表しました。参加作もマカヤ・マクレイヴンのマスターピース『ユニバーサル・ビーイングス』を始めとして増える一方、個人的にはジェイムズ・フランシーズの『フライト』、マーキス・ヒルの『モダン・フローズ』、アーロン・バーネットの『ザ・ビッグ・マシーン』におけるプレイも耳にこびりついています。ジョエルが参加するとそのセッションは猛烈に活気づき、サウンドの背骨も筋肉も一層厚みを増していくような印象を受けます。加えて、彼がヴィブラフォンから放つ一音一音がキラキラとした粒子となって、天空に舞っているような印象も受けるのです。
11月11日には好評シリーズ「BLUE NOTE plays BLUE NOTE」に登場し、黒田卓也や桑原あいなどとブルーノート・レコーズの名曲(その中にはハッチャーソンの「リトル・Bズ・ポエム」もありました)を聴かせてくれたジョエルですが、翌12日は自身のユニット"グッド・ヴァイブス"による初日公演でした。『キングメーカー』も基本的には同バンドによるパフォーマンスですが、ジョエルによるとレコーディングされたのは3年前とのこと。イマニュエル・ウィルキンス(アルト・サックス)、ジェレミー・コレン(ピアノ)は当時からのメンバーで、リズム・セクションは入れ替わってオル・バレケット(ベース)とクッシュ・アバデイ(ドラムス)が担当しました。
プログラムは「Touched by an Angel」から幕を開けましたが、『キングメーカー』を聴いたうえで足を運んでも、"あれ、本当にこの曲だったっけ?"というぐらい内容は変化しています。そしてノンストップで白熱のやりとりが続きます。ジョエルは1960年代のマイルス・デイヴィス・クインテット(マイルス、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス)から大きなインスピレ―ションを受けているとのことですが、その触発具合、予想の斜め上をさらに超えるような展開(フォルテシモに達したバンド合奏から突如、クラシカルな無伴奏ソロ・ピアノ・パートに移行したり)、メドレー形式で各曲が綴られていくところなど、確かにぼくはマイルス・クインテットの1967年度ヨーロッパ・ツアーにおける演奏の流れを思い出さずにいられませんでした。3曲を連続で演奏し終えたとき(それはリアルタイムで聴いていると、ひとつの壮大な組曲に聴こえました)、もう50分以上が過ぎていたのではないかと思います。ヴィブラフォンを演奏することはすなわち全身運動であることを遺憾なく示すジョエルの俊敏な動きから繰り出される強力な打鍵、うねるようなソロ、あまりにも繊細なペダル・ワークから生み出されるニュアンスたっぷりのサウンドには陶然とさせられるばかりです。もちろん他のメンバーも超強力このうえありません。ジョエルはヴィブラフォンをジャズの最前線の楽器に押し上げただけではなく、バンド・リーダーとしても目を見張る存在であることを、この夜のライヴは改めて知らしめてくれました。
公演は本日も行なわれます。今のジャズ・ヴィブラフォン、今のニューヨーク・アコースティック・ジャズを目の当たりにできる至福の機会です。ぜひお越しください。"Wizard of the Vibes"(ヴィブラフォンの魔術師)とは1940年代のミルト・ジャクソンにつけられたキャッチフレーズですが、現在はまさしくジョエルがその座に着いています。
(原田 2019 11.13)
Photo by Tsuneo Koga
2019 11.12 TUE.
1st | |
---|---|
1. | TOUCHED BY AN ANGEL |
2. | VARTHA |
3. | MARSHELAND |
4. | KINGMAKER |
5. | WHO ARE YOU? |
2nd | |
1. | BLUED |
2. | VARTHA |
3. | MARSHELAND |
4. | KINGMAKER |
5. | WHO ARE YOU? |
EC. | GATO'S GIFT |