原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

N.Y.ブロンクスを起点とした、キューバ～ブラジル～カーボベルデへの音楽旅行といったところでしょうか。マスターズ・アット・ワーク、ニューヨリカン・ソウルなど数々のプロジェクトでシーンを活気づかせてきた"N.Y.ハウス・ミュージックの帝王"、ルイ・ヴェガ率いるジ・エレメンツ・オブ・ライフの痛快なステージが昨日から始まりました。前回の「ブルーノート東京」公演は2003年7月ですから、約17年ぶりの再登場です。そのときはラウル・ミドンがたっぷりフィーチャーされていました。まだ無名同然だった彼が、圧巻の歌声とヴォイス・トランペットで満場を沸かせたのを鮮明に覚えているベテラン・ファンは、ぼくだけではないと思います。

今回のメンバーも、(U)NITY等のバンドでも活動するアクセル・トスカ（キーボード）、伝説的ハウス・グループ"ブレイズ"で知名度を高めたジョシュ・ミラン（キーボード、ヴォーカル）、ヴェガのプロデュースで名盤『Percussion Madness』を残すルイシート・キンテーロ（ドラムス、パーカッション。彼が参加したチック・コリア『Antidote』は先日のグラミー賞で最優秀ラテン・ジャズ・アルバム賞を獲得しました）など、重量感と瞬発力を備えた凄腕ばかり。ヴェガはトレードマークの帽子を深くかぶり、アクションいっぱいにバンドを指揮し、切れ味鋭いMCで観客を煽ります。かつてニーナ・シモンやジョン・コルトレーンがとりあげた「Feelin' Good」（'60年代に英国の作曲家、アンソニー・ニューリーがミュージカルのために書き下ろしました）ではラモーナ・ダンラップの声量豊かな歌声がフィーチャーされ、続くアクセル・トスカ作「Callejon」ではツイン・キーボードが技の応酬を繰り広げます。そして、いよいよ"ヴォイス・オブ・エレメンツ・オブ・ライフ"というべきアナーネが登場。なかでもカーボベルデの歌姫、故セザリア・エヴォラの代表曲「Sodade」における抒情的なヴォーカルは、尋常ではないほどホットなパフォーマンスが続く中で一種の清涼剤的な役割を果たしました。

"今度はブラジルに案内しよう"、ヴェガがオーディエンスに語りかけます。いったいどんなブラジリアン・ナンバーが出てくるのかと思ったら、予想は斜め上を行くものでした。'70年代後半、ハービー・ハンコックの通称"ヴォコーダー・バンド"でサイド・キーボード奏者を務めていた故ウェブスター・ルイスが書いたサンバ調の「Barbara Ann」が演奏されたのです。ジーン・ペレスの図太いベース、空間を音で埋め尽くすかのようなルイシートのドラムスががっちりとサウンドのボトムを固め、ジョシュがベンド奏法を取り入れた圧巻のアドリブを演じます。彼はまた「Children of The World」でキーボードとスキャットのユニゾンによるロング・ソロを展開、こちらも大変な聴きものでした。

"ニューヨリカン・ソウルの時代に戻ってみよう！"。そんなMCが飛び出すとオーディエンスはさらに大喜び。'97年にリリースされた同名の歴史的傑作から取り上げられたのは、「I Am the Black Gold of the Sun」。ぼくはただちに往時にタイムスリップしてしまいましたが、初めてこの曲を体験するファンにも躍動的なリズム、なんともいえず"泣き"のあるメロディは大いにアピールすることでしょう。天井ではミラーボールが回り、オーディエンスは次々と立ち上がって思い思いにダンスします。

時代や国境を越えたグルーヴのシャワーを浴びた・・・・そう形容したくなるようなステージでした。次回の来日がまさか17年後になることはないでしょうが、これほどのメンバーが揃うパフォーマンスが目の前で味わえることは極めてレアかと思います。公演は本日も開催されます。

(原田 2020 2.5)

Photo by Makoto Ebi