2022 7.14 thu., 7.15 fri.
The EXP Series #38 DURAND JONES & THE INDICATIONS
artist DURAND JONES & THE INDICATIONS
ライヴの中盤だった。
ジ・インディケーションズのドラマーであり、スウィートなファルセット・ヴォイスで世界を魅了中のアーロン・フレイザーがマイクを取って、こんなことをしゃべり出した。
「これからやる曲はすごくひさしぶりなんだ。でも、今夜東京で初めてショウができるのを僕らは楽しみにしていたから、どうしてもやりたい」。
その曲は「Dedicated To You」。つまり、"あなたたちに捧ぐ"。彼らの熱心なファンならチェックしているであろうライヴ盤『Live Vol.1』(2018年)に収録されている曲だが、数年ぶりにセットリストに加えられたのは本当らしい。それほどまでに彼らが今回の来日公演を待ち侘びていたという気持ちを、曲にして表明してくれたのだった。
思い起こせば、新型コロナ・ウィルスに世界が覆われてしまう直前、一度は彼らの初来日は発表されていた(2020年4月の予定だった)。去年、雑誌『POPEYE』でアーロンに取材したときも心から残念そうな態度だったのを覚えている。太平洋を越えた日本からの、彼らのソウル・ミュージックへの熱いラブコールが確かに届いていたのだろう。もともとアメリカと日本で相思相愛だったところを、「Cruisin' To The Park」「Witchoo」のクラブヒット、アーロンのソロ・デビューなどの話題も後押しし、さらに遠距離恋愛的なじれったさも加わったわけだから、そんなショウが盛り上がらないわけはない。客電が落ち、メンバーが颯爽とステージに現れると、場内はあたたかい喝采に包まれた。
リード・ヴォーカルで唯一の黒人メンバーであるドラン・ジョーンズ、そしてアーロン・フレイザーのことは知っていても、バンドを支える他のメンバーについては今日が初見という人も多かったはず。ギターとキーボードでメロウなフィールを的確に作り出すブレイク・レインと、ヴィンテージなエッセンスを柔らかくキーボードでバンドに振りかけるスティーヴ・オコンスキーの2人が両端に。そしていちばん新しく加入したベースのマット・ロミーは、アーロンとのコンビでしなやかなグルーヴを作り出す。
個々の職人的なテクニックで圧倒するというより、彼らはジ・インディケーションズとしてのアンサンブルで魅せるスタイル。チカーノ・ソウルのファンにも愛されるゆえんであるミディアム・テンポのナンバーを連発する。ぐいぐいと低音で直撃して踊らせるド派手なファンクではないが、痒いところにしっかり手が届く音のエスコートがどこまでも気持ちいい。ドランとアーロンだけじゃなく、みんなコーラスもうまい。このバンドを愛し続けてきたことを自分たちの音楽で証明する。そのうれしさが全員からじわじわと伝わってくる。
何より素晴らしいのは、バンドのフロントマンであり、リード・シンガーとしてステージを引き締め、盛り上げ、そして泣かせるドラン・ジョーンズのエンターテイナーとしての存在感だ。「Can't Keep My Cool」でじっくりと客席を高めていく姿に、全員が惚れた。男っぽさやワイルドさを誇示するような感じではなく、スマートなかわいらしさが自然と備わってるのが、またいいんだ。
そして、やはりもうひとり忘れちゃならないソウルボーイがアーロン・フレイザー。ドラムキットに座ってステディにビートをキープしながら、ファルセット・ヴォイスでハートをとろけさせるのも忘れない。コロナ禍でいろんなことが制限されていたさなか、「Cruisin' To The Park」が連れ出してくれた心のなかの公園が、どれだけぼくらを支えていたか、どんなに拍手しても恩返ししきれない気持ちになる。
MCが比較的少なめだったのは、言葉ではなく音楽でコミュニケーションをとっていこうとする彼らの真摯な姿勢なのかな。限られた時間だけど自分たちの曲をできるだけたくさん聴いてほしいと思ってのことだったかもしれない(初日のファースト・セットでは17曲が演奏された)。
彼らが音楽で与えてくれるこの最高に幸せなソウルミュージック・タイム。黙っていられなくて、すぐにでも誰かに伝えたくなる。音楽の素敵さって、きっとそういうふうに伝染していくものだ。
text:松永良平
ライター/編集。雑誌/ウェブで記事執筆、インタビューなど。著書『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)発売中。
Photo by Jun Ishibashi
●LIVE INFORMATION
The EXP Series #38
DURAND JONES & THE INDICATIONS
2022 7.14 thu., 7.15 fri.
2022 7.14 thu.
1st | |
---|---|
1. | Circles |
2. | The Way That I Do |
3. | Love Will Work It Out |
4. | Don't You Know |
5. | Long Way Home |
6. | Sea Gets Hotter |
7. | More Than Ever |
8. | Dedicated to You |
9. | How Can I Be Sure |
10. | Can't Keep My Cool |
11. | True Love |
12. | Is It Any Wonder |
13. | Smile |
14. | Cruisin' To The Park |
15. | Sea of Love |
EC1. | Too Many Tears |
EC2. | Witchoo |
2nd | |
1. | Circles |
2. | The Way That I Do |
3. | Love Will Work It Out |
4. | Don't You Know |
5. | Long Way Home |
6. | Sea Gets Hotter |
7. | Dedicated To You |
8. | How Can I Be Sure |
9. | Hell Below |
10. | Morning in America |
11. | True Love |
12. | Is It Any Wonder |
13. | Smile |
14. | Cruisin' To The Park |
15. | Sea of Love |
EC1. | Too Many Tears |
EC2. | Witchoo |
2022 7.15 fri.
1st & 2nd | |
---|---|
1. | Circles |
2. | The Way That I Do |
3. | Love Will Work It Out |
4. | Don't You Know |
5. | Long Way Home |
6. | Sea Gets Hotter |
7. | Dedicated To You |
8. | How Can I Be Sure |
9. | Hell Below |
10. | ツバメの季節に(with Shintaro Sakamoto) |
11. | True Love |
12. | Is It Any Wonder |
13. | Smile |
14. | Cruisin' To The Park |
15. | Sea of Love |
EC1. | Too Many Tears |
EC2. | Witchoo |