原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

　わずか21歳でマイルス・デイヴィスの通称"カムバック・バンド"に抜擢されたサックス奏者のビル・エヴァンス。伝説のブルース歌手ジミー・ウィザースプーンのバンドや最初期のイエロージャケッツで活躍し、一時期はマイルスの許にも在籍、自身が率いる数々のプロジェクトも成功に導いてきたギタリスト/ヴォーカリストのロベン・フォード。マイルス、マドンナ、スティングらと共演、約30年間ローリング・ストーンズのサポート・メンバーも務めて現在に至るベーシストのダリル・ジョーンズ。以上3名よりは10歳ほど年下のドラマーで、スティーリー・ダン、ジョン・メイヤー、スティングなどと演奏を繰り広げてきたキース・カーロック。ツワモノたちが集まった文字通りのサミット・ミーティングが、昨日から超満員のオーディエンスを集めて始まりました。

　公演は当初、2020年4月の開催予定で準備が進められていました。しかし折からのパンデミックで中止となり、そこからあっという間に3年が経って今に至ります。4人の勇者たちは、約束を実行すべくスケジュールを調整し、このたび、ついに、パフォーマンスを日本のファンに届けてくれることになったのです。演奏プログラムは、『The Sun Room』（こちらのベースはジェイムズ・ジナス）、『Common Ground』という会心作からのものが中心。すでに音源に親しんでいる方なら「あの曲がライヴではこう発展するのか」と新鮮な気持ちになることでしょうし、先にライヴに接した方は帰りぎわ、会場で販売されているディスクに手が伸びてしまうはずです。

　オープニングを飾った「Ever Ready Sunday」は最新作『Common Ground』からのナンバー。"俺たちの共通の土台（Common Ground）はマイルス・デイヴィス"ということなのでしょうか、エヴァンス在籍時期のマイルス・バンド、曲でいうと「Speak」あたりを彷彿とさせるサウンドが飛び出します。エヴァンスのソプラノ・サックスが白熱し、ダリル・ジョーンズの重厚なベース・プレイがそれを支えます。高音から低音までのレンジの広さが並ではない、それも私がこのバンドのライヴに接して感じたところです。

　エヴァンスがテナー・サックスに持ち替えて始まったのは、「Blues MD」。ロベンがジミー・ハスリップ、ヴィニー・カリウタとの"ジン・チ"でも演奏していた楽曲ですが、曲想といい、マイルスのイニシャルにちなむ曲名といい、このメンバーにぴったりのセレクションです。エヴァンスとロベンの掛け合いにひときわ大きな拍手が起こり、そこからごく自然にダリルのベース・ソロにつながってゆきます。いまとなっては少数派かもしれないレギュラーグリップ派（左手のスティックの握り方を、ぜひライヴでごらんください）のキースはエヴァンス作「Hearts of Havana」で離れ業というべきソロを披露。どのタムを叩いても粒が揃っていて、しかも猛烈な厚みのある音を出します。ロベンのヴォーカルを彩り豊かに引き立てる「Gold on My Shoulder」、ブッカー・T＆ジ・MGズのファンも大喜びするに違いないシャッフル風ブルース「Catch A Ride」などなど、重鎮3人が本当にキースを信頼し、彼のビートに快さを感じて演奏していることが伝わってきました。

　このライヴでは、まさしく全員がスターです。公演は4月17日まで続きます。

(原田 2023 4.15)

Photo by Yuka Yamaji

●来日公演は4月17日(月)まで
BILL EVANS & ROBBEN FORD "Blues, Miles & Beyond" featuring DARRYL JONES & KEITH CARLOCK