原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

ハービー・ハンコック『ヘッド・ハンターズ』、渡辺貞夫『カリフォルニア・シャワー』、リー・リトナー『ジェントル・ソウツ』、ドナルド・バード『ブラック・バード』、マリーナ・ショウ『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ』など幾多のベストセラーに参加し、ボブ・ジェームスやネイザン・イーストらとのオールスター・ユニット"フォープレイ"でも活動。半世紀以上のキャリアを誇るスター・ドラマー、ハーヴィー・メイソンが現在、最も情熱を注いでいるプロジェクトの一つが、この"カメレオン"（またはカメレオン・バンド）です。結成から約10年の間に、カマシ・ワシントン、マイルズ・モズリー、モノネオンらを輩出した"カメレオン"の、今回の公演は、19年の来日公演にも参加したヘイリー・ニスワンガー（テナー・サックス）とマーク・ド・クライヴ・ロウ（キーボード）に、イエロージャケッツのメンバーとしても活動歴があるフェリックス・パストリアス（ベース）を加えた最新ラインナップで行われています。

以前の来日公演はどちらかというとジャズ・ファンク～フュージョン色が強めでしたが、今回のライヴは、より自由奔放です。活動の最初期にジョージ・シアリングらのバンドでアコースティック・ジャズを演奏していた頃も含めて、彼が歩んできた道程の数々が、くまなくこの夜に反映されていたのではないかという印象も受けました。前半で行われたのは、約50分に及ぶメドレーです。冒頭はなんと、「All Of You」。コール・ポーターが書いた歴史的なスタンダード・ナンバーを、4人は徹底的に解体します。テーマ・メロディこそ原曲に沿っているものの、アドリブ・パートはワン・コードで展開され、メイソンはステディなビートを打つことなく、ソリストのプレイに絡み合うような叩きっぷりを続けます。メンバー間ではしきりにアイコンタクトがとられ、次に誰がどの手で来るか、息をのみながら待ち受けているかのようでもありました。まるでフリー・ジャズのような展開に突入していく中、しだいにウェイン・ショーター作「Footprints」のメロディが浮かびあがってきます。この曲を演奏するときの定番といっていいであろうベース・ライン（マイルス・デイヴィス『マイルス・スマイルズ』等で聴くことができます）は省かれ、なんというのでしょう、"メンバーそれぞれが新たにイメージする「Footprints」像"を、4人が同時にプレイしている感じです。

「Nautilus」、「If She Asks」を経て、再びショーター作の「Fall」で連続演奏が締めくくられた後、メイソンが改めてフェリックスのことを紹介します。父親は、伝説的ベーシストのジャコ・パストリアス。メイソンはハービー・ハンコックのセッションでジャコと共に演奏したことがあり、それはハンコックのアルバム『Mr.ハンズ』に収められています。"朝の4時にセッションが終わったから、「4 A.M.」というタイトルになったんだ"。40数年前にジャコと共にプレイしたこの曲を、今、6弦ベースをつまびくジャコの息子と共に演奏するメイソンを見聴きできるだけでも、ライヴに足を運ぶ意義は十分すぎるほどあるのではないでしょうか。ヘイリーの逞しいサックス・ブロウをはさんで、ベース・ソロのフレーズがやがて大定番「Chameleon」のイントロに変化すると、場内はさらなる盛りあがりへ。アブストラクトからファンキーまで、レンジの広い音の旅にすっかり酩酊させられたひとときでした。カメレオンの公演は17日までブルーノート東京、そして18日には高崎芸術劇場スタジオシアターで行われます。
(原田 2023 9.16)

Photo by Makoto Ebi

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【LIVE INFORMATION】

HARVEY MASON "CHAMELEON"
featuring MARK de CLIVE-LOWE, HAILEY NISWANGER & FELIX PASTORIUS
2023 9.15 fri., 9.16 sat., 9.17 sun.　ブルーノート東京

2023 9.18 mon.　高崎芸術劇場 スタジオシアター